2019/6/27

家事・育児に無関心なイクジなし夫は企業の女性活躍推進にも暗い影を落とす。家庭と職場の両方で活躍を求められても、妻はパンクしてしまう。女性活躍に熱心な企業ほど夫にもアプローチするのだが……。

産前産後休業・育休から復帰する社員を対象に、復職後の家事・育児分担、キャリアプランを考えてもらうセミナーを開く第一生命保険。主人公は復職する社員だが、15年から他社に勤務する夫にも参加を呼びかけている。「仕事と子育ての両立態勢をどう整えるか。パートナーの役割についてもセミナーでは伝える。夫婦でしっかり情報共有できていないと分担はできない」。ダイバーシティ&インクルージョン推進室長の井口早苗さんは力を込める。

でも、会社の思いはなかなか夫に届かない。セミナーが平日開催で参加しづらい面もあるが、過去5回で出席した社外勤務の夫はわずか3人。「家事・育児をチームで担えば妻は仕事でチャレンジできるし、もっと頑張れる」と夫の意識改革に期待を寄せる。

男性の育休義務化に向けた議員連盟が発足

こうした実情を打開しようと6月5日、自民党有志議員が「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」を立ち上げた。詳細は今後検討するが、出産間もない時期に1カ月程度の育休を男性社員に取らせるよう、企業に義務付ける案が浮上している。

市民団体が6月13日に主催した勉強会。自民党「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の国会議員も参加した(東京・千代田、参議院議員会館)

育休を取りたくても職場に遠慮して実現しない男性の背中を押せるほか、家事・育児を夫に習慣づけるきっかけにもなる。出産直後、精神的に不安定になりがちな妻をサポートもできる。発起人の一人、和田義明・衆院議員は「批判覚悟で義務化を掲げた。社会に根付いた意識を変えるには大胆な施策が必要」と話す。議連からの提言を受け取った安倍晋三首相は「重く受け止める」と応じており、育児・介護休業法などが改正される可能性もでてきた。

事態が進み始めたとはいえ、理想と現実のギャップはまだ大きい。強引に義務付けても職場は混乱するばかり。企業には知恵が必要になる。

18年9月に「男性育休完全取得」を宣言した積水ハウスは、男性社員に子どもが3歳になるまでに育休を1カ月以上取るように迫っている。19年5月末までに約1500人の対象のうち914人が取得済みか、取得中。急速に制度利用が進んだ背景を探ると、入念な準備と万全な支援体制が浮かび上がる。

まず、休業中の給与の補償だ。育休中は通常無給で、替わりに雇用保険から休業給付金が休業前賃金の67%支払われる。これでは収入減に直面するため、当初の1カ月は有給とし、休業前賃金を補償するようにした。ボーナスの査定や昇進・昇格の評価でも、休業中の空白が一切影響しないように人事制度を改めた。

業務の引き継ぎを見える化する「取得計画書」も導入した。担当業務をすべて棚卸ししたうえで、直属の管理職と相談し、どの業務を誰に引き継ぐかを明記する。職場内で対応しきれなければ管理職が部署を越えて協力を依頼する。それでも難航しそうなら担当役員が仲介する。

男性の育休取得者が900人を超えた積水ハウス。芳賀翔平さんもその一人

3つ目の工夫として、「家族ミーティングシート」の作成がある。育休中、何もせずゴロ寝をしていては妻の負担がむしろ増す。どんな家事・育児を担うのかを家族で話し合い、役割を具体的にシートに記入。妻による評価と感想も休業明けに会社に提出する。

「男性育休完全取得」は仲井嘉浩社長が18年5月に発案した。「売り上げが落ちる」「本人が休みたがらない」「妻が専業主婦なので必要ない」など反対意見も挙がる中で、3カ月間、現場のヒアリングを重ねて対策をじっくり練った。8月には全管理職を対象にフォーラムを開催し、仲井社長自らが「家族との絆が強くなるだけでなく、家事・育児経験は顧客への提案力向上にもつながる」などと経営上の利点を説き、管理職に意識改革を迫った。

■職場の協力を得られない義務化はモチベーション下げる

同社の伊藤みどり執行役員は「助け合う職場風土も整えず、取りやすい工夫も考えないままに、ただ『取れ』と命じても軋轢(あつれき)が生じる。職場の協力を得られない義務化は取得者本人も同僚もモチベーションが下がるだけだ」とみる。