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インバウンド最前線

訪日客呼び込むキャッシュレス 中小店は端末操作が壁

2019/7/18 日本経済新聞 朝刊

横浜銀行は地域の商店街にキャッシュレス決済の導入実験を始めた(横浜市)

首都圏の自治体や金融機関などが個人店舗などへのキャッシュレス決済の導入を急いでいる。10月の消費増税に伴うポイント還元や訪日客の利用を見込んだ期待感が広がっている。ただ機器操作などへの不安から導入に二の足を踏む店舗があるほか、規格の乱立も障害となっており、浸透にはなお課題を残す。

「はまPayを導入すれば、キャッシュバックがあります!」。5月の土曜、「ハマのアメ横」として知られる洪福寺松原商店街(横浜市)では恒例の祭りに合わせ、地域の子どもが横浜銀行の行員らと一緒に商店街を練り歩きながら、同行のスマートフォン決済「はまPay」をPRした。

横浜市と横浜国立大がPRに協力し、同大学の学生が内容を考案した。横浜銀がスマホ決済の導入を急ぐ背景には、キャッシュレス決済の普及で銀行が「土管化」するのを避けたいとの思いがあるため。大矢恭好頭取は「地銀らしいキャッシュレス社会を実現したい」と意気込む。

ただ、洪福寺松原商店街の一部では利用客のアプリが古く、決済ができないなどのトラブルも発生した。店員からは消費者にアプリなどの適切な説明ができるか不安視する声も漏れている。横浜銀の島山幸晴担当部長はキャッシュレス決済の普及を急ぐ半面、「慣れた現金決済以外の方法を導入するのは難しい」と吐露する。

墨田区商店街連合会(東京・墨田)は18年12月から19年3月末まで、ペイペイ(同・千代田)とスマホ決済を利用した実証実験にのぞんだ。「ペイペイ使えます」との「のぼり」を掲げ、加盟店には導入時に実験協力費として2500円を連合会から給付した。当初導入店舗は300店だったものの、終了時では800店を超えた。

実験中の決済総額は明らかにしていないが、連合会の井上佳洋事務局長は「若年層やインバウンド(訪日外国人)を呼び込んだ」と打ち明ける。実験後はペイペイ以外のスマホ決済を導入する店舗も増えて「スマホ決済に対応できる商店街として認知度が高まった」(井上氏)。

埼玉県は外国人観光客らが多い秩父地域で、官民連携でスマホのQRコード決済の普及に向けた実証実験を進めている。LINEなど4社の協力を得て商店や観光施設などがスマホ決済を導入しやすくし、県全域での普及に向けた課題などを探る。

自治体も自ら導入に動く。千葉県市川市は市税や国民健康保険税、保育料、市営住宅の家賃などをLINEのキャッシュレス決済「LINE Pay」で支払えるようにした。「市民の支払い手段を増やして利便性を高める」(企画課)。市によると市税などの納付に同サービスを使えるようにしたのは関東では初めてで、1~4月までに計300件近い利用があった。

消費増税に伴いポイント還元策が導入されることから、官民一体でキャッシュレス決済の導入を急ピッチで支援する。ただ信用スコアに直結する中国と異なり、紙幣や硬貨をほとんど唯一の支払い手段としてサービスの利便性を高めてきた日本の流通現場ではなかなか浸透しないのが実情だ。普及には、現金と比べた飛躍的なメリットなどを示す必要がありそうだ。

■キャッシュレス決済
クレジットカードや電子マネー、スマートフォンのアプリなどを使う支払い手段。矢野経済研究所は2018年11月、17年度のモバイル決済の国内市場規模は1兆256億円で、23年度に4兆3708億円に拡大するとの推計をまとめた。政府は10月の消費増税後、中小の店舗などの支払いにキャッシュレス決済を用いた場合に、ポイント還元で消費者に一部還元できる軽減策を定めた。

(牛山知也)

[日本経済新聞朝刊2019年6月22日付]

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