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「年金不足」より認知症リスク 示唆多い金融審報告書 経済コラムニスト 大江英樹

2019/6/27

公的年金は多くの人の老後の収入の柱とされる=123RF

6月初めに金融庁が発表した市場ワーキンググループの報告書が大きな話題になっています。「老後資金は30年で約2000万円不足する」との試算を示したことが「国民に不安や誤解を与える」と批判され、事実上の撤回に追い込まれました。しかし、これは非常に残念なことです。報告書には我々一人ひとりが自分の老後のお金を考えるときの示唆が実は多く盛り込まれているからです。本コラムの主な読者であるシニア世代から今回の問題をみる場合に大切な視点についてお話ししたいと思います。

最初に指摘したいのは、報告書の目的が大きく勘違いされていることです。この報告書が公表されたとき「老後の生活には2000万円不足するから自助努力で賄いましょう」という部分のみが切り取られて大きく報道されたため、「年金の破綻をついに国が認めたのか」とか「保険料を払わせておいて自助努力はないだろう」といった主張がインターネットでも多く上がっていました。しかし報告書をよく読めばわかりますが、どこにも年金が破綻するだの、老後の生活は自助努力しかないなどということは書いていません。

報告書はまず、今後の社会状況を考えると個人が自分で必要な資産形成をすることが大切であること、高齢化が進むことによって金融取引に対する認知・判断能力の低下する人が増えることを前提としています。そのうえで誰もが長い老後生活を「自分ごと」として考え、金融業者もそれに寄り沿う形でフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)をより一層意識していくべきであると提言しています。

■金融取引、高齢者保護が課題

「2000万円の不足」はこうした結論を導くための前提の話の中で、あくまで一つのケースとして示したのに過ぎません。この数字が独り歩きし、かつ政争の具にされているのが現状なのです。麻生太郎金融相は報告書を受け取らないとし、「文章をきちんとした上で新たなものを作業部会でつくることも考えられる」と述べています。「2000万円」問題や年金改革の議論が今後どう進むかは未知数ですが、私は今回の報告書は多くの示唆に富むと考えていて、特に2つのポイントをお伝えしたいと思います。

第1に金融取引での高齢者保護についてです。報告書で指摘されているとおり、高齢化が進むということは誰もが認知症になるリスクを抱えていることを意味します。現在も高齢者に対する不適切な金融商品の販売は後を絶ちません。そんな状況の中で、高齢顧客保護のあり方は個別の金融機関の問題だけでなく、業界全体で横断的に考えていかなければならない極めて重要な問題です。

麻生金融相は報告書を「国民に不安や誤解を与える」として受け取らなかった

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