銀河団を結ぶ「糸」を初めて観測 新しい研究の扉開く
銀河団は銀河がたくさん集まったもので、それぞれの銀河団どうしは「糸」で結ばれて網のような構造になっていると考えられている。その2つの銀河団を結ぶ「糸」が初めて観測された。
2019年6月7日付け学術誌『サイエンス』に発表された論文によると、今回観測されたのは、地球から10億光年の彼方でゆっくり衝突しようとしている2つの銀河団を結ぶ電波の尾根。エイベル0399とエイベル0401という2つの銀河団の間にあるプラズマ流だ。長さは900万光年以上で、宇宙の大規模構造を示す「宇宙の網」の1本の糸をなぞっている。
天文学者たちはこれまで、網の結び目にあたる銀河団の中を見ることはできたが、銀河団どうしを結ぶ糸を観測するのは容易ではなかった。今回の論文の著者であるイタリア国立天体物理学研究所のフェデリカ・ゴボーニ氏は、「銀河団どうしを結ぶ電波放射が観測されたのはこれが初めてです」と言う。今回の発見は、宇宙の大規模構造を理解するのに役立つ可能性がある。
ほとんど見えない糸
宇宙は、銀河が集まった銀河団と、銀河団が糸で結ばれた網のような構造、そしてそれらの間にある巨大な超空洞(ボイド)からなると考えられている。天文学者たちはこれまで、主に宇宙の網のビーズにあたる銀河団を観測してきた。
高温のガスと、高密度だが光学的には観測できない暗黒物質(ダークマター)と、輝く星々からなる銀河団は、可視光、赤外線、X線、ガンマ線、電波などあらゆる波長で観測することができる。すでに、エイベル0399とエイベル0401を含む一部の銀河団の中心部では、珍しい電波の暈(かさ、対象物の周りが輪のように見える現象)がとらえられている。
しかし、銀河団の間の空間には物質がまばらにしか存在せず、非常に暗いため、遠方のものを見るのは困難だった。それでも、ゴボーニ氏らは最近、エイベル0399とエイベル0401の間の空間に目を凝らしてみることにした。プランク衛星が撮影した画像に、2つの銀河団を結ぶ物質が糸状に写っていたからだ。ゴボーニ氏は、この画像が自分の好奇心を刺激し、2つの銀河団は磁場によっても結ばれているのではないかと考えたという。
予測より100倍明るかった
エイベル0399とエイベル0401は、現在、融合の初期段階にある。両者はまだ約980万光年も離れているが、将来的には衝突して、より大きな超銀河団を形成するはずだ。現時点では、銀河団の間の空間が激しくかき乱されていて、衝撃波や磁力線や粒子が飛び交っている。
ゴボーニ氏らは欧州の電波望遠鏡ネットワークLOFAR(Low-Frequency Array、低周波干渉計)を使って、この空間を観測した。
LOFARは、光速に近い速度で運動する電子が放射する電波(シンクロトロン放射)を検出した。シンクロトロン放射は、電子が磁場の周りを高速でらせん状に運動するときに発生する。このような電波の尾根は宇宙の網のあちこちにあると考えられるが、今日の望遠鏡の検出限界を超えているとゴボーニ氏は言う。
米国海軍研究所の天文学者トレイシー・クラーク氏は、「この研究で検出されたシグナルは、宇宙の網からのシンクロトロン放射に関する理論予測より100倍も明るいのです」と言う。「おそらく、融合しつつある銀河団の間の領域で強められているのでしょう」
今回観測された電波の尾根は非常に長い距離にわたっているが、これだけ広大な空間で電子が光速に近いスピードまでたえず加速されてゆく機構についてはまだわかっていない。「この研究をきっかけに、糸の中の粒子の分布、磁場の強さ、加速過程など、新しい研究の扉がいちどに開かれることになるでしょう」と、クラーク氏は語る。
(文 Nadia Drake、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年6月10日付]
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