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飼い主のストレスは愛犬に伝染 最新研究で判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/6/29

ナショナルジオグラフィック日本版

カメラに目を向ける、年老いたボストンテリア。イヌは人の感情にきめ細かく反応する(PHOTOGRAPH BY HANNELE LAHTI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

愛犬が期待に満ちた顔でしっぽを振るのを一目見れば、最悪の日でも明るい気分になることがある。逆にイヌが病気なら、飼い主の心も痛む。こうした関係は一方通行ではないことが、新たな研究でわかった。飼い主が長期間にわたってストレスや不安を感じていると、飼い犬にもそれがうつっている場合があるという。研究成果が2019年6月6日付け学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表された。

「イヌは人間を理解するのが大の得意です」と、論文の著者でスウェーデン、リンショーピング大学の動物学者であるリナ・ロス氏は話す。「私たち人間がイヌを理解するよりも、イヌのほうが人間のことを断然よく理解しているのです」

実際、それを物語る論文は増え続けており、人が出す言語以外のサインを解釈するイヌの能力が明らかになっている。

イヌのこの能力は、1万年以上にわたって人間と生活を共にする中で磨き上げられてきた。イヌが最初に家畜化されたとき、人の言動(直接的な命令と、間接的なボディーランゲージの両方)にすぐ反応できた個体の方が、注意深くなつきにくい個体に比べて受け入れられやすかった。

一方、これには潜在的なマイナス面もあった。人が恐怖を感じると、イヌも同じ気持ちになってしまうのだ。

■「毛」に残るストレスの証拠

もともと普通よりも不安を感じやすく、感情面で敏感な人は、神経症的傾向があると言われる。自己申告で不安感がある人は、ペットに慢性的なストレスを感じさせているのではないかと、ロス氏は仮説を立てた。

研究チームは、スウェーデン国内から飼い主とイヌのペアを募集。58組が集まり、犬種はシェットランド・シープドッグ33匹、ボーダーコリー25匹だった。飼い主は自身の性格特性とメンタルヘルスに関する質問に答え、飼い犬についても同じように回答した。

人とイヌのストレスレベルを数カ月にわたって調べるため、ロス氏らのチームは、人の髪とイヌの毛に含まれるストレスホルモン、コルチゾールの濃度を測った。

恐怖を感じる状況では、コルチゾールの値は自ずと急上昇する。この物質の長期的な影響は、ゆっくりと伸びる毛髪に記録されている。

ロス氏らのチームは、イヌの活動レベルの季節差やライフスタイルなど、あらゆる変数を吟味したが、イヌの不安の強さと最も相関が高かったのは、飼い主の不安の強さだった。言い換えれば、飼い主の毛髪のコルチゾール値が高い場合、飼い犬の毛のコルチゾール値も高かったのだ。

興味深いことに、この関係が逆方向に作用することはなかった。論文によれば、イヌが不安を感じていても、それによって飼い主が不安になるという証拠は見つからなかったという。逆に、イヌは飼い主の体臭や、同じ場所を歩き回る、爪を噛む、過敏になるといった行動の違いなど、かすかな変化に気付いていたらしい。

「当初は、この結果にとても驚きました。しかしイヌにとっては、日常生活の大部分を占めるのが飼い主です。一方、飼い主の生活にはイヌ以外にもさまざまなことがあります」とロス氏は話す。

イヌの行動の専門家で、カナダ、ブリティッシュコロンビア大学の心理学者スタンレー・コレン氏は、今回の研究結果について、近年、証明が進んでいる「イヌは人の感情を読み、その通りに反応する」ことの裏付けだとコメントしている。

■アニマルセラピーのすすめ

新たな発見は、不安を感じやすい人はイヌを迎え入れるべきではないという意味ではない。むしろ、その逆だとコレン氏は言う。

実際、くたくたに疲れた人も、イヌがいればリラックスする助けになるかもしれない。全米不安障害協会は、日常生活のストレス要因に対処する1つの方法として、ペットを飼うことを勧めている。医学研究でも、イヌのそばにいると血圧が下がることがあるという結果が出ている。

ロス氏ら研究者たちは、飼い主の不安感がペットの長期的な健康に与える影響は調べていない。しかしコレン氏は、愛犬に何が起こっているのか理解しようとするなら、自分自身の行動について考えてみるよう、強く勧めている。

(文 Carrie Arnold、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年6月10日付]

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