試合前のメークで得た勇気と自信 元新体操日本代表元「フェアリージャパン」主将、田中琴乃さん

――アンバサダーは日本代表チームとポーラとの間に立つポジションです。何が変わりましたか。

「会社を離れてからの方が自分の経験や意見を言いやすくなったというのはありますね。会社に所属していると、まず会社として伝えないといけないことを(選手に)伝えることが優先されます。自分の話を入れるのは二の次で。今は選手の意見を拾い上げ、新体操界の現状を感じ取って会社に伝えることができます。もっと新体操を盛り上げていきたいという思いは、会社と一致しています」

東京大会ではボッチャにも「注目してもらいたい」

――アンバサダーとしてどのように新体操を盛り上げていきますか。

「ひとつは、メークを通じて盛り上げること。今年開発したのは、新しい元号の令和メーク。『ハーモナイズドビューティー』をテーマにしました。新体操の団体は5人の動きがピタッと合って、高得点を得る競技です。遠くから5人の演技を見ても、五つ子ちゃんに見えるように仕上げていきます。それに令和を代表する花は梅ですから、そのイメージで梅色リップをつくりました」

「もうひとつ言いたいのは、ポーラの『ビューティーディレクター』という個人事業主の販売員のことです。とても日本代表を応援してくれています。日本代表が活躍することで、ビューティーディレクターも盛り上がります。そして『女性が、ここぞという場面で勇気になったり、自信になったりするものを扱っている仕事に誇りを持ってほしい』という気持ちもあります。メークで勇気や自信をもらったというのは、選手時代の自分自身の経験ですから、私もスポーツと美容のことをからめて伝えていきたいと思います」

ロンドン五輪での「フェアリージャパン」の演技(2012年8月)=共同

――ロンドン五輪では団体で7位入賞を果たしました。キャプテンとして苦心したのは、どんなことですか。

「フェアリージャパンは『いす取りゲーム』のような生活です。15~20歳ぐらいの子が12~13人で共同生活をしていても、実際に試合に出られるのは5人。いすをライバルに取られてしまうという不安でストレス過多になってしまう場合もあります。だから、キャプテンとして、できる限り、何でも話ができる空気をつくることを心がけていました」

「同じことを繰り返しながら、7~8時間続く練習は苦しいことも多いのですが、新体操を嫌いになるような練習はしたくないと思っていましたから、先生との距離感もはかりながら練習を組み立てていました」

新体操に通じるボッチャ

――来年の東京五輪・パラリンピック、新体操以外で注目している競技は何ですか。

「ボッチャですね。私自身が楽しんでゲームをしていますから。見ているだけでは簡単そうに思えるかもしれませんが、やってみると実は奥が深くて難しい。そんなところが好きです。私は(日本ボッチャ協会の)ボッチャキャラバンアンバサダーも務めています。皆さんにもボッチャに注目してもらいたいですね」

「ボッチャは自分が意図して、ここに投げようと思って正確に投げる競技です。新体操も決められたところに(ボールなどを)投げる反復練習をしますので、通じるものがあります。ボッチャは試合中、一球一球に皆が目を向けて、会場がシーンと静まりかえる場面があります。選手はプレッシャーを感じると思いますが、体の可動域に限りがある人も含めて、自分のベストを尽くす姿はかっこいいですね」

――東京大会に出場する海外アスリートに知ってほしいことは何でしょうか。

「私自身が北京五輪とロンドン五輪に出場して、特に印象に残っているのはボランティアの活躍です。とても楽しそうに、にこやかにしている姿を見ていると、こちらも笑顔になります。笑顔と笑顔がリンクして、周りの人を幸せにしていきます。それは選手のモチベーション向上にもつながります。大会を成功させる力になると思っていますから、東京でも選手には、そのことを感じてほしいですね」

(聞き手は山根昭)

田中琴乃
1991年大分県生まれ。2006年に新体操日本代表「フェアリージャパン」に入り、08年北京五輪は団体10位。12年ロンドン五輪は主将を務め、団体7位。13年に現役引退。14年日本女子体育大卒、ポーラ入社。美容研究室、宣伝部で活躍しながら、日本代表の美容コーチも務めた。ポーラ退社後もメークの開発や選手の指導に注力する。

日経からのお知らせ 日本経済新聞社は7月8日、2020年東京五輪・パラリンピックを機に、スポーツを軸とした経済活動がどのように活発になっているのかを探る第5回日経2020フォーラム「東京2020からのスポーツエコノミー新潮流」を開催しました。みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長、アシックスの尾山基会長最高経営責任者(CEO)が講演するほか、シスコシステムズの鈴木和洋会長、データスタジアム(東京・港)の加藤善彦社長、Bリーグの葦原一正常務理事、元新体操日本代表の田中琴乃さんによるパネル討論も実施しました。同フォーラムの模様は日経の映像コンテンツサイト「日経チャンネル」で、ご覧いただけます。

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