審査員として参加したダイキンの担当者が「ちょっと後で詳しく話を聞きたい」と前のめりでコメントし会場を沸かせたのが「内張り暖断熱」だ。東京大大学院1年で都市工学を専攻する小松航樹さんが発表した。
断熱シートでお年寄りに暖かい部屋を
小松さんのアイデアは、いわばお部屋版のZOZOスーツ。スマホで部屋を撮影して注文すると、部屋の壁にぴったりサイズのシートと暖房の器具が届く。シートは自分で壁紙のように貼る。中に空気を送り込めるエアチューブの構造で、部屋の内外の気温や湿度、本人の心拍などから代謝も判断し、最適な温度設定を判断してちょうどいい温風をエアチューブ部分に送り込む。
「同じ広さの部屋でも、部屋や建物の構造によって、実は必要な暖房パワーも変わるんです」と小松さん。普通の暖房器具は部屋の状態には関係なく広さ別にパワーを設置しているが、「必要以上にパワーがあって高価なものを使っているケースがある」という。
断熱性の高い家に住む高所得層はまだいい。「断熱性が低い部屋に、低所得のお年寄りが住んでいるのもよく見かけます。そういう人たちに高価な暖房機器を買えとはいえませんよね?」と小松さん。
小松さんの「内張り暖断熱」なら、部屋に置く暖房機器にセンサーを取り付け、時々刻々と変わる室温や湿度をSINETを使ってサーバーに蓄積する。データが集まれば集まるほど、それぞれの人に最適な暖かさを割り出せるようになり、ちょうどいい温風をエアチューブに送り込めるようになる。
普通の暖房器具は温度調節機能を器具側につけるため高価になるが、「内張り暖断熱は温度管理はSINET側で集中管理できるから、価格も下げられる」(小松さん)という。すでに仲間と一緒に試作品も作り始めている。
小松さんは北海道出身。大学院で初めて東京に住むようになり、「断熱性の高い北海道の家に比べて東京の家は寒くてびっくりしたことが出発点だった」という。自らの肌感覚を大切に、社会的弱者にも配慮したアイデアに「思いが感じられる」といった声が相次いだ。
AI研究の第一人者で審査員として参加した東京大の松尾豊教授は講評で、「ビジネスを考える際には、自分のニーズと世界のニーズは必ずしも同じではないことに気づこう。そして、世界にそのビジネスがないのはだれも思いつかなかったからという『自分天才仮説』はダメ。技術、マーケットなど見極める目を養ってほしい」とアドバイスを送った。今回のビジコンで披露された、暮らしに寄り添う着眼点は、起業に興味のある学生にも大いに参考になりそうだ。
(藤原仁美)