トイレに冷蔵庫、暖房……。引っ越しでもするのか?と思うようなこれらの言葉は、大学生がアイデアを競うビジネスコンテストで取り上げられたテーマだ。人工知能(AI)の活用をテーマにしたイベントだっただけに、U22記者は「理解できるかな」と一瞬身構えた。ところが、実際は共働き家庭の食卓を思い、シニア世帯の冬に心を寄せるようなアイデアが相次ぐほっこりとした内容。学生たちは暮らしに直結したニーズを見事にとらえていた。
今回のビジネスコンテストは、AIをテーマにした日本経済新聞主催のイベント「AI/SUM」の一環。全国の大学生から選ばれた8チームがアイデアを競った。
最優秀賞はBEN。企業賞のソニー賞も同時受賞した。BENは「便」つまりウンチに注目したサービスを披露した。メンバーは、東京大工学部電子情報工学科3年の中本光彦さんと東京大経済学部金融学科3年の市村健太さんの2人だ。
トイレは健康情報の宝庫
BENは「トイレで毎日健康診断」がコンセプト。自宅のトイレに取り付けたカメラで日々の便を撮影し、大腸がんの兆候をすばやく見つけて早期発見につなげるというアイデアだ。現在、大腸がん発見の基本は便潜血検査だ。日本では40歳以上は年1回の受診を推奨されている。「ところが、受診率は40%とかなり低い。しかも、目視による検査なので、見逃しも3割ほどある」(中本さん)
そこで、BENの2人は、「家で用を足すたびに診断できればいいんじゃないか?」という考えに思い至った。自宅のトイレに取り付けたカメラで便を撮影する。AIに画像認識技術を組み合わせ、60以上の大学病院から健常者と大腸がん患者の両方の便の画像データをSINETで集めて深層学習させる。日々の便をカメラが監視することで、病院に行かずして大腸がんを発見できるという。
せっかくカメラを取り付けるのだから、大腸がん以外にも使えるはず。そこで「便の状態を日々カメラで監視して、生活習慣病の予防にも活用するなどの活用が考えられる」と中本さんは言う。