法律婚より事実婚がメリット大? 大人婚の損得勘定
人生100年時代を生き抜くアラフォー&アラフィフ世代。シングルならではのお金の悩みや、病気、突然の退職など「クライシス」への備え方・乗り越え方があります。これから結婚を考えている方の中には、話題の事実婚を検討している人も多いはず。「事実婚か法律婚か―アラフォー&アラフィフ結婚の損得勘定」について、ご自身も事実婚を選択されたFPの前野彩さんにお聞きしました。
事実婚は不利益ほぼナシ! 住民票の記載が、事実婚の「証明」になる
40代、50代の大人婚で、「籍を入れるかどうか」は悩みどころではないでしょうか。法律婚では妻か夫どちらかの姓を選ぶ必要があり、多くの場合は夫の姓が選ばれます。改正手続きをいとわなかったり、「彼と同じ名字になりたい」という一体感を求めたりする人は法律婚がいいと思います。
でも、法律婚には、改姓の手続きや、夫の親族との付き合いが生まれるといったことも付いてきます。キャリアを重ねてきた女性にとっては、仕事で旧姓を通称として使うという選択はあっても、資格が必要な士業の場合、保有資格を管轄する団体に戸籍謄本等の書類を出し、手続きをしなければなりません。
そこで「事実婚を検討してみたい」というとき、法律婚に比べて不利になる点はあるのでしょうか。
結論から言えば、不利益は「ほぼ」ありません。かく言う私自身、2000年から事実婚をしていますが、特に不便を感じてはいません。
「ほぼ」としたのは、事実婚は相続では大きな不利益があるからです。その対策は後で触れるとして、まず「事実婚とは何か」を整理しましょう。
事実婚は単なる同居や同棲(どうせい)とは異なり、結婚の意思があるとして、法律婚とほぼ同じとみなされ、夫婦として利用できる制度もあります。何をもって証明するのかといえば、住民票です。
入籍したときの住民票の続柄記載は、世帯主が男性の場合は、女性は「妻」、世帯主が女性なら男性は「夫」と記載されます。これを、「妻(未届)」または「夫(未届)」と記載することで、「婚姻の意思はあるが、自分たちの意思で婚姻届を出していない」という、事実婚の証明になるのです。
共同名義や家族割OK。相続は「お互い、遺言書を」
事実婚も、法律婚と同じように、パートナーが専業主婦(夫) の場合は、健康保険や年金の被扶養配偶者になることもできますし、相手が亡くなった時の遺族年金を受け取ることもできます。
専業主婦(夫)が事実婚の関係を解消する、つまり離婚する際には、事実婚夫(妻)が婚姻期間中に納めた厚生年金記録を国民年金第3号被保険者(※)である事実婚妻(夫)が2分の1受け取れる「3号分割」を請求することができます。ただし、二人ともが会社員の場合、二人の合意や裁判手続きにより年金の割合を定める「合意分割」を請求することはできません。
※国民年金第3号被保険者とは、厚生年金保険の被保険者、共済組合の組合員の被扶養配偶者で、20歳以上60歳未満の人をいいます。
また、生活の中においても携帯電話の家族割も利用できますし、共同名義での不動産購入もできます。保険会社の死亡保険金受取人や入院、手術の際に必要な家族同意書も、パートナーのサインが有効になってきました。
ちなみに我が家の表札は、パートナーと私で2つの表札を出しています。ご近所さんに「二世帯住宅なの?」と聞かれた際に、「夫婦とも仕事をしているので」と言うと、私は私の、パートナーはパートナーの姓で呼んでくれるようになりました。わざわざ事実婚であることを明かさなくても、こうした軽い説明でもいいと感じています。
私の周りを見ると、子どもを持つことは考えていないカップルが事実婚を選ぶことが多いようです。出産を希望する場合は、相手が認知をする、子どもの名字をどちらかに決める、親権者を決める、といったことを選択すれば、子どもありの事実婚も可能です。
しかし1点だけ注意が必要です。
その注意点とは相続です。相続権は法律上の配偶者にしか認められていません。「事実婚では遺産相続ができない」それが事実婚の最大のネックになってきます。
そこでわが家では万一の場合に備えて、私もパートナーも相手に遺産を遺すために、遺言書を書いています。自動的に相続することはできなくても、その対処法はあるのです。
「遺産目当ての結婚ではない」アピールにもなる?
人生100年時代を迎えるにあたり、今後はシニアの結婚、再婚も増えてくるでしょう。私は、事実婚を選ぶカップルは増えると予想しています。
法律婚を選ぶと、結婚している期間に関わらず、夫の死亡により、妻は遺産の半分を相続する権利があります。すると、再婚相手に子どもがいる場合、子ども側としては、突然やってきた新しい母親が遺産の半分を相続できるのは、納得できないかもしれません。サスペンスドラマやマンガでよくあるケースですね。
事実婚を選べば、法律上自動的に妻が相続する権利はないため、子どもとして、相続財産の面から親の再婚(事実婚)に反対しづらくなることも考えられます。
ちなみに配偶者として遺産の相続はできなくても、遺族年金の権利はあります。また、残された遺族年金だけでその後の生活費が足りない可能性があれば、事実婚の妻を受取人にできる保険会社で、生命保険に入るなどの方法もあります。
キャリアも行動力もある40代、50代の女性だからこそできる、自分にとってより幸せな選択。 法律婚、事実婚についてよく知った上で考えてみてはいかがでしょうか。
煩わしさも金銭的な不利益もほぼなし! 大人婚なら、事実婚は現実的な選択肢
(取材・文 阿部祐子)
Cras代表取締役、FPオフィス will代表。ファイナンシャルプランナー。中学・高校の保健の先生から、事実婚、退職、住宅購入、加入保険会社の破たんを経て転身。働く女性や子育て世帯が、お金の安心と可能性を実感できる「知れば得トク、知らなきゃソンするお金の知恵」を伝える。大阪・東京を中心に講演やテレビでも活躍。新著に『本気で家計を変えたいあなたへ〈第3版〉 書き込む"お金のワークブック"』(日本経済新聞出版社)。
[日経ARIA2019年3月15日付の掲載記事を基に再構成]
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