ピロリ菌に感染、自覚しないまま進行 がん・潰瘍に
しっかり対策ピロリ菌(上)
女性では乳房、大腸に次いで罹患(りかん)数の多い胃がん。その大きなリスク因子が、胃粘膜に感染し、炎症を起こすヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)だ。乳幼児期に感染し、多くは無症状のまま。簡単な検査で調べられ、早期に除菌することで、胃がん予防だけでなく胃潰瘍や胃炎の予防・改善も可能だ。1回目はピロリ菌感染によるリスクや感染ルートなどについて解説する。
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国が対策を進めている「5大がん」の1つが胃がん。かつては発症原因がわかっていなかったが今は研究が進み、多くはピロリ菌という微生物の感染が原因で起こることがわかっている。世界保健機関(WHO)も、胃がんを引き起こす大きな原因としてピロリ菌の感染を挙げる。
胃の粘膜にピロリ菌が感染すると、慢性胃炎、萎縮性胃炎と胃粘膜の炎症が進むと考えられている。萎縮性胃炎の状態が長期にわたると、胃がん発症のリスクが高まる。
衛生状態の悪い井戸水がピロリ菌の感染源の一つとされているため感染率は若年層ほど低く、40~50代では3~4割程度とみられている。慢性的な胃もたれ、胃痛を自覚するケースもあるが、「大半は無症状。検査で初めて感染がわかる人が多い」(南毛利内科の内山順造院長)。
ピロリ菌が感染するルートははっきりとわかっていないが、家族単位での感染が多いため、現在は幼少期に唾液を介して感染すると考えられている。40~50代女性がピロリ菌に感染していると、自分の親も感染している可能性が高く、自分の子どもにも、育児中にうつしているかもしれない。つまり自分のピロリ菌感染を調べれば、上下3世代の感染の有無が間接的にわかる可能性があるというわけだ。
ピロリ菌が関わる疾患は胃がんだけではない。「胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなり、消化管からの出血リスクも高まる」と話すのは東海大学医学部の鈴木秀和教授。「消化管出血は、高齢者では、がんよりも死亡リスクとして高くなる場合もある」(鈴木教授)ため、侮れない。
特に女性は頭痛や月経痛で痛み止め薬を内服する人が多いが、「『NSAIDs*潰瘍』と呼ばれる痛み止め薬由来の潰瘍発生リスクは、ピロリ菌感染があると数倍に跳ね上がる」と内山院長も指摘する。なお、女性に多い鉄欠乏性貧血も、ピロリ菌感染でリスクが高まるという研究報告もある。
*NSAIDs(エヌセイズ):ロキソプロフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬のこと
長さ4ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリメートル)の細菌。胃酸を中和するアルカリ性の物質をつくりだすことで、強酸性の胃粘膜で生息できる。多くの胃がんはピロリ菌が原因で起こると分かっている。いったん感染すると除菌しない限り胃の中に存在し続けるが、除菌すれば胃がんの発症リスクを大きく下げられる。
南毛利内科(神奈川県厚木市)院長。1991年香川医科大学(現・香川大学医学部)卒、東海大学医学部大学院修了。米国留学、神奈川県内診療所院長などを経て2013年より開業。専門は消化器内科。抗加齢にも詳しい。
東海大学医学部内科学系消化器内科学(神奈川県伊勢原市)教授。1993年慶應大学医学研究科博士課程修了。米国留学、北里研究所病院消化器科医長、慶應義塾大学医学部教授などを経て2019年4月より現職。日本ヘリコバクター学会副理事長。
(ライター:渡邉真由美、構成:デジタル編集部 中西奈美)
[日経ヘルス2019年6月号の記事を再構成]
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