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俳句と落語、ちょっといい関係 驚きの句会初体験

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

先日、生まれて初めて俳句を詠んだ。立川こはる姉さんの呼びかけで、落語家仲間6人で句会をやることになったのだ。

実はこの数年、俳句に興味を持っていた。落語は芝居のように衣装や大掛かりな舞台セットを使わず、演者も自分ひとりだけ。発信する情報を極限まで省略することで観客の脳内補完を促す。たった一人で喋っているだけなのに、瞬時に色々な登場人物を演じ分けられるし、どんな場面を描くこともできる。正座も「下半身の省略」に他ならない。立ち姿も座り姿も表現しやすくなり、狭い舞台上でどこまでだって全力疾走することができるようになる。

同じように俳句はたった17文字で情景を描き出す。使う言葉を減らすことで、反対に読み手が自由に想像し脳内補完する余白が増える。17文字だけしか表していないのに、100文字、1000文字、いやもっと多くの情報を与えることができる。水の流れを表すために、あえて水を省略する枯山水(かれさんすい)もしかり。

落語家で俳句をされている師匠方は少なくない。最小限の言葉で読み手の想像をかき立てる俳句は落語と通ずるものがあるのだろう。

僕は特に、物事を記号的に切り取って、そこを起点に言葉遊び感覚でネタを作るのが好きなタイプで、情景や情感をネタに入れ込むことが得意ではないと自覚している。だから、俳句をやれば情景描写にも何かしら良い影響が出るんじゃないかと興味を持っていた。

それでもいざ俳句を始めようと思ったところでどうやればいいのか分からない。やりたいなぁとは思うけど、具体的には動かない。どう動いていいか分からない。それが僕と俳句の距離感だった。

いきなりお気に入りができたけど…

今回、こはる姉さんからお誘いいただいたおかげで初めて俳句を詠むことができた。元編集者で年上だけど落語家としては後輩にあたる立川寸志さんだけが経験者。寸志さんにやり方を教えてもらいながらの句会は、こはる姉さん含めてみんなが初心者というのも気がねがなくてよかった。

句会に先立って参加者には「青田」というテーマが与えられていた(季題っていうのかな?)。「青田」が入った俳句をそれぞれが2句ずつ詠んで、事前に主催者(この役割の人のことを宗匠って呼ぶのかも)であるこはる姉さんに送信する。

集まった句を、誰が詠んだかは伏せた状態で当日全員に渡す。そして、それぞれが自分の感覚で気に入ったものを選ぶ。上から順番に天(てん)は3点・地(ち)は2点・人(じん)は1点。最後に一番気に入らなかったものを駄(だ)に選ぶ。これはマイナス1点。

仲間内の集まりだからボケるのもありだけど、せっかくだから僕は真正面からちゃんと取り組むことにした。

真っ先に浮かんだのは「青田が広がるどこか遠い田舎。大きな入道雲と綺麗(きれい)な青空。昼過ぎ。ずいぶん暑い。青田沿いの道を歩いていると、足元にアイスの棒が落ちていて、そこにアリが集まっている」という光景。くっきり頭に風景が浮かんだから、これを詠もうと決めた。

青田道アイスの棒に黒い蟻

夏の暑い感じ、照りつける太陽、青田の香り、風、蝉の鳴き声、色々なものが感じられる気がした。いきなりお気に入りの一句ができた。

「アイスの棒」を「氷菓の棒」に変えようか。「氷菓のさじ」はどうだろうか。蟻と直接的に書かずに「黒い丸」とか「集う黒」と抽象的にしようか。色々と修正案も浮かぶ。

歩いていたら地面に黒い模様が見えて「何かな?」と思ったら蟻だった、っていう瞬間はいいよなぁ。あ、その蟻がなんとなく昔好きだった人の名前に見えたっていうのはグッとくるぞ。「昔好きだった人の名前に見えたけど、次見たらもう散り散りになっていた」っていうのもいいなぁ、でも17文字じゃ無理! どんどんイメージが広がる。

俳句は楽しいなぁと思いながら何気なく俳句について検索したら衝撃の事実が発覚した。「できれば季語は一句につき一個がいい」とのこと。確かに「季重なりはダメ」とどこかで聞いたことがある気がする。

えっ、じゃあひょっとして、と思って調べたら「青田道」は当然として、案の定「アイス」も「氷菓」も「蟻」も夏の季語だった。

初俳句十七文字に季語三つ

季語が重なるのは絶対にダメというわけじゃなさそうだったけど、初心者は1句につき1つの季語を心がけましょうと書いてあったから素直に従うことにした。

「青田道はずれの棒に動く黒」みたいなことも考えたけど、これはすでにアイスの棒に蟻が集まっている光景に愛着がある自分だからしっくりくるだけで、初めて読んだ人には伝わらないだろう。仕方がないから、最初に浮かんだイメージは全て捨てて新しく考えることにした。結果的に僕が詠んだのはこれ。

青田道目を見開いて都会の子

僕にとってはとても光景が浮かぶし、子供が「うわぁ!」って心を躍らせている様子や、そこに吹き抜ける風まで感じられる。あまりにもすんなり出てきたから、もしかしたらどっかで見たことがある句かもと怖くなって一応検索してみたくらいだ。

日常風景の解像度アップ

句会当日。みんなの持ち寄った句を見て、「なるほど俳句は面白い」と思った。本気で考えた後だからこそ、どういう意図でその言葉を選んだのか手に取るようにわかる句もあったし、僕には思いもよらない角度から言葉を持ってくる人のすごさも身にしみた。

寸志さんの句は「ペダル踏むくるぶし眩し青田風」「仙山線青空映す青田かな」。やっぱりうまいなぁ。「青田」というイメージにあえて青色をくっつける感覚が僕には思いもよらなくてハッとした。

そんな中、僕が悩みに悩んで天に選んだのはこはる姉さんの「ウシガエル響く青田の月夜かな」という句。いまになって「めちゃくちゃ季重なりじゃん」と気づいたけど、それでも初めて見た時はとてもびっくりした。

と言うのも、今回僕はずっと昼間の青田だけを思い浮かべていた。遠い田舎の青田。入道雲、青空、風。こういう景色を想像して言葉を探していた。僕以外の句も全てが昼の景色を切り取ったものだった。それがこはる姉さんのこの句を詠んだとき、「あっ、そうか。夜でもいいんだ!」と驚かされた。それが気持ちよかったからこの句を天に選んだ。

俳句をやると、ふとした光景に目がいくようになる。日常を見る眼差(まなざ)しの解像度が上がる。それがどう落語に生きてくるかはわからないけど、毎日が少し楽しくなるのは確かだ。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

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