育休明けの転勤内示はOK? 「パタハラ」SNS炎上弁護士 志賀剛一

この事案ではアトピー性皮膚炎であるお子さんの育児負担(食事や入浴)が特段に重たいことを理由の一つにしているので、カネカのケースとは異なる点もありますが、育休法26条の解釈については参考になるのではないでしょうか。相談のケースでも、もし地方への転勤命令が出た場合には、具体的な事情を示して会社と十分話し合うべきですし、また、会社にはその話し合いに誠実に対応する義務があります。

有休取得後、退職願を提出すべきだった?

さて、カネカの事案にはもう一つ論点があります。カネカが有給休暇取得をさせなかったのではないか、という問題です。ネット上の様々なコラムでは、転勤命令は違法ではないものの、有給休暇取得をさせなかったのは違法ではないかという意見が多いように感じていますが、有給休暇取得に関する限り、私は異なる意見です。

日経ビジネスのインタビューによると、Aさんいわく「大型連休明け7日に、退職願を出しました。受理される前に一度、話そうということでその数日後に上司と面談しました。そこで……約30日間残っていた有給休暇を2週間くらい取得して、6月中下旬まで待ってもらえませんか、と伝えると『その方向で進めよう』と。でも、その後メールが来たんです。『5月末で辞めてくれ。……』と」とのことです。

この点、Aさんが「退職願が『受理される前に』」と述べているのが気になります。カネカの見解によれば「5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出され」たことになっており、Aさんが先に5月31日という退職日を記載した退職願を会社に提出したこと自体は事実と認められます。

正確な事実関係は不明ながら、インタビューによるとAさんは「受理される前に一度、話そうということで」と述べていて退職願の提出後に交渉の余地があると考えていたフシがあるのですが、退職願を書面で会社に提出し、権限のある人がこれを受理し、会社が承諾すれば(会社が特段遺留している状況でなければ、通常は承諾となります)、以後撤回はできなくなります。

本件に関する複数のコラムが「有給休暇取得を妨げる行為は違法ではないか」と述べていますが、本件に関しては時系列上、5月31日を退職日とするAさんの退職願が先行し、その後に有給休暇取得の交渉をしているようにうかがえるので、それが事実だとすると、有給休暇取得の点に関しては会社側に問題はないように思えます。

もし退職時期を6月中旬としたいのであれば、Aさんとしては、先に有給休暇の取得を行使したうえで(これを妨げるのは違法になります)、退職日を記載した退職願を提出すべきであったと私は考えます。

優秀な人材採用に支障も

国連児童基金(ユニセフ)によれば、日本など41カ国の政府による2016年時点の子育て支援策に関し、給付金などの支給制度を持つ産休・育休期間の長さでは、日本の制度は男性で1位の評価を得ましたが「実際に取得する父親は非常に少ない」という特異性が指摘されました。また、自民党有志議員が男性の育休取得を企業に義務づける動きまで報じられています。育休を軽視する企業は社会的な評価を下げることになります。株価下落の一因になるのみならず、売り手市場といわれている就活生からも敬遠され、優秀な人材採用にも支障をきたすことになりかねません。

志賀剛一
志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。
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