発達障害の子どもたち ほぼ半数に睡眠の悩み

日経ナショナル ジオグラフィック社

勉強?スマホ?(イラスト:三島由美子)

ツイートの主はASDとADHDの合併と診断されている方のようだが、年齢は分からない。ただ以前から「興味がないことをやろうとすると突然訪れる強い眠気」に悩んでいたらしく、ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群など、日中に眠気がでる睡眠障害のことを調べていたがどうもしっくりこない。ところが「発達障害の一部にはそういう症状がある」と知って「目からウロコと涙が落ちて落ちて止まらなかった」と書いている。 このツイートには共感するリツイートが多数寄せられていることから、同様の悩みを持っている人が相当数いることがうかがえる。

この方の眠気を考える上でのポイントは、ツイートの中にある「興味がないことをやろうとすると」である。通常の過眠症では眠気は持続的で、時刻やシチュエーションを問わず出現するため、日中を通じて眠気に悩まされる。ところが、発達障害の子供では(大人でも)、授業中やデスクワークなど「退屈な」場面で眠気が急速に出現することが多い。一方で、関心のあることには熱中し、眠気を忘れてしまう。同じ授業でも好きな教科では眠気を感じない。友人と会話を楽しんでいる最中にも眠ってしまう過眠症とは全く異なる。

発達障害に特有の不思議な眠気の可能性も

ところでちょうど2年ほど前、筑波大学から「退屈になると眠くなる脳内メカニズム」の一端が解明されたと報告があった。ごく簡単に説明すると、彼らはマウスを使った実験により、大好物やおもちゃなどで気を引いてモチベーション(やる気)を高めると、意欲に関わる「側坐核」という脳部位の活動が変化して覚醒度が高まり、覚醒時間が延び、逆に睡眠時間が減ることを見いだした。

この研究で明らかになった「やる気や興味、関心が覚醒度を上げる脳内メカニズム」が人でも働いているとすれば、ADHDのように注意が散漫だったり、自閉症スペクトラム障害のように注意や関心が向く領域がごく限られていると、モチベーションが高まる場面が少なかったりと、患児や先のツイッターの主が悩んでいるような強い眠気が出やすいことの説明にもなりそうだ。

一方で、発達障害の患者でみられる眠気には筑波大学の研究成果だけでは説明できない不思議な特徴が認められることがある。側坐核を介して調節される眠気は、睡眠不足による眠気と同様に、脳波でキャッチできる眠気である。ところが、発達障害の患者の場合には強い「眠気」を訴えているにもかかわらず、脳波を調べると実際には客観的な眠気が認められないという謎の検査結果になることが少なくない。

もう少し具体的に説明すると、過眠症や睡眠不足であれば、日中に暗室で寝かせるとあっという間に(時には数秒から数十秒で)脳波上の睡眠状態に入る。ところが、発達障害の患者では自覚的には強い眠気があっても、脳波が睡眠状態になるまでにかかる時間は眠気のない健康人と同程度であることが多い。すなわち従来の睡眠科学で定義された「眠気」とは異なるものである可能性がある。

彼らが感じている眠気とは何か? そもそも「眠気」の定義とは何か? これは睡眠―覚醒現象の本質にも関わる難問であることは間違いない。注意や意欲、意識などさまざまな方面から科学的アプローチが行われつつある研究テーマだが、浅学の私にはこれ以上解説する見識が無いので、これでひとまず筆を置くことにする。

三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2019年4月11日付の記事を再構成]