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マイノリティーを体験 わかった大切なこと ダイバーシティ進化論(村上由美子)

2019/6/22

PIXTA

長年海外で生活していたためマイノリティーという立場を経験することが多かった。もっとも強烈な体験は、カリブ海の西インド諸島内に位置するバルバドスで過ごした2年間だろう。

最初の就職先である国連から派遣された元英国植民地の島国は、住民の3%を占める白人系の他はすべてアフリカ系。日本人どころかアジア人を一度も見たことのない人たちに囲まれて生活した。

当初はバルバドスなまりの英語は理解不可能だったし、周囲の人たちの識別も困難だった。私の耳はアメリカ英語に、目は白人とアジア人にしか慣れていなかったからだ。しかしこの経験が、私のその後の人生を豊かにしてくれた。

自分の物差しが全く通用しない世界で、異なる価値観や思考回路をどう理解するか。前提を共有しない人たちを相手に、いかにして真意を言語化し意思疎通を図るか。時には孤独に打ちひしがれながらも、試行錯誤を繰り返し、多くを学んだ。

例えば、人間関係の構築に影響するのは、人種や国籍など属性の差異よりも、個人個人の違いの方が実は大きいこと。合意せずとも異論を受け入れることは可能であること。同質性の高い日本では自然に学ぶことができなかった教訓だ。

米アップル最高経営責任者のティム・クック氏は、自身がゲイであることを公表している。社会の主流派にかき消されがちなマイノリティーの声に耳を傾け、多様な人間に対して共感力をもつことができるようになったのは、性的少数者という自分自身の体験があるからだと語っている。イノベーションを促進するためには多様性を受容する企業文化が必要だと指摘されているが、同氏が率いるアップルは、その重要性を深く認識しているだろう。

留学や転勤で海外生活を経験する日本人は少なくない。日本人コミュニティーを飛び出したっぷりとマイノリティー体験をすることで、新しい世界が見えてくるはずだ。あうんの呼吸で物事が進む環境が取りこぼす奇抜なアイデアの芽に、日本のリーダーはもっとアンテナを張る必要がある。

資金力や技術力が世界的にはトップレベルなのに、日本ではイノベーションが生まれにくいとされる。マイノリティー視点を見逃さないリーダーたちが育成されれば、日本はイノベーション大国として成長できるのではないだろうか。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2019年6月17日付]

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