華やかさます有機ELテレビ 画面明るく個性を競う
「年の差30」最新AV機器探訪
テレビが好調だ。調査会社のGfKジャパンによると、国内テレビ市場は2017年にプラスに転じて以来、成長が続く。中でも2018年の有機ELテレビの販売台数は、2017年の3倍以上にもなっている。
2019年の夏ボーナス商戦を前に、LG、ソニー、東芝、パナソニックから新型有機ELテレビが発表された。オーディオ・ビジュアル評論家の小原由夫氏によると「今年の有機ELテレビには大きな変化があった」という。その結果、各社の個性がこれまで以上に発揮されているというのだ。実際に新型を見比べた平成世代のライターが、小原氏と各社の有機ELテレビの魅力を探った。
有機ELに本気で取り組んだパナソニック
小沼(27歳のライター) この連載では、2017年(「有機ELテレビ比較 同じパネルでも際立つ4社の個性」)、2018年(「画質高まる有機ELテレビ デザインと価格で見極めを」)と継続して有機ELテレビを見てきました。2019年もLG、ソニー、東芝、パナソニックの新製品が出そろいましたが、小原さんからみて新モデルの印象は?
小原(55歳のオーディオ・ビジュアル評論家) まず、今年はこれまでと大きく違う点があります。パネルの供給源が韓国LGディスプレーであることに変わりはないのですが、今回から輝度調整のパラメーターが開放されたんです。
小沼 「輝度調整のパラメーター」とはどういうことでしょう?
小原 ディスプレーの明るさを調整する設定のことです。これによって、より広い範囲で各社が独自の画質チューニングを行えるようになりました。要するに、絵作りの自由度が上がったんです。有機ELテレビが登場して以来、これほど各社の特色がはっきりと出てきた年はないと思いますよ。
小沼 各社の発表会では「暗いといわれていた有機ELがこんなに明るくなった」「暗部の黒つぶれ、明部の白飛びを抑えて表現力が増した」といった発言をよく聞きました。その背景には、輝度パラメーターの解放も関係していたんですね。
小原 自由度が高まったところで、メーカーごとの取り組み方にも違いが見えてきました。
小沼 ではメーカー別に見ていきましょう。4社で小原さんが特に印象に残ったのは?
小原 今年はパナソニックですね。他社にはないレベルで踏み込んだ製品づくりをしています。輝度のピーク感やグラデーション、黒の深みなど、絵作りに関しては、頭一つ飛び抜けている印象がありました。
小沼 パナソニックは「GZ2000」「GZ1800」「GZ1000」の3シリーズを展開しています。最上位モデルである「GZ2000」シリーズは、たしかにすごくきれいでしたね。
画質もさることながら、僕はその音に驚きました。「GZ2000」シリーズはテレビ上部に「イネーブルドスピーカー」というスピーカーを搭載し、天井に音を反射させる構造を採用しているのですが、これによってすごく音響の広がりが出ていたんです。
小原 たしかに音響技術とそのアプローチも優れていましたね。パナソニックの有機ELテレビは人材や技術などさまざまなリソースを投入して確かな成果を上げた。「今年は本気だな」と感じさせる出来に仕上がっていると思います。
LGは多彩なラインアップを展開
小原 小沼さんが気になったメーカーは?
小沼 僕はLGが良いなと思いました。
小沼 「OLED W9P」「OLED E9P」「OLED C9P」「OLED B9P」の4シリーズ、計9モデルとラインアップが豊富。「自分が買うならどれかな?」と想像しながら見ることができましたし。
小原 LGはたしかにラインアップが豊富ですね。壁掛けならぬ「壁貼りテレビ」として力を入れた「OLED W9P」を筆頭に、ライフスタイルに応じてさまざまなテレビを提案していくという取り組み方がはっきりしてきたと感じます(「壁貼りテレビ」に関しては記事「有機ELは液晶と何が違う? TVの進化と未来を探る」参照)。
小沼 小原さんから見て画質はどうでしたか?
小原 画質も過去最高のクオリティーですよ。暗部はしっかり締まっているし、階調の表現もよくできています。シリーズによって、画質に差をつけていないのもLGの特徴ですね。
小沼 確かに最も安価なエントリーモデルの「OLED B9P」でもすごくきれいでした。興味のある人が手に取りやすいと思います。
小原 若い小沼さんはLGが力を入れているIT系の機能をどう思いました?
小沼 すごく気になりました。個人的に引かれたのは「ミニブラウザ」という機能です。スマホの画面をテレビのディスプレー上にミラーリングして表示できる機能で、出演者や紹介されているお店などを調べながら視聴できます。
小原 目線の移動が少なくて済むのは良いかもしれませんね。
小沼 そうなんですよね。「手元のスマホで調べればいいじゃないか」と思っていたのですが、実際に体験してみるとテレビの画面に映し出されるのは便利だと感じました。
小原 若い人でもそう思うのか。ITを駆使して新しい機能を提案するのは、やはりLGの強みですね。
小沼 どこも力を入れていますが、音声検索の使い勝手も良さそうでした。「Google アシスタント」「Amazon Alexa」に加え、テレビ操作に特化した「ThinQ AI」というAIを搭載しているんです。LGによると、「30分後にテレビを消して」と言ったとき、Google アシスタントだけだとこのワードでGoogle検索をしてしまうことがあるそうなのですが、「ThinQ AI」を併用することできちんと30分後にタイマーを設定してくれるということでした。
東芝も有機ELに力を入れるか
小沼 東芝は「X930」と「X830」の2シリーズ。クリアでコントラストのはっきりした画質でした。
小原 東芝もパナソニックと同様に、輝度パラメーターの開放にともなって、様々な要素・技術を入れてきましたね。
小沼 パナソニックとの違いは?
小原 パナソニックが自社設計でできるぎりぎりのところまで踏み込んで作っているのに対し、東芝はある一定の範囲を決めてその中で最大限のことをやったという印象です。
小沼 内覧会では「これまでは有機ELよりも液晶のほうが優れている面もあったが、今年からは間違いなく有機ELが最高品質」という話がありました。輝度向上によって暗さが改善されたこと、パネル発熱の温度上昇を抑え焼き付きへのリスクが低減されたことなどがその理由だそうです。
小原 有機ELが最高品質というなら、今後は有機ELがメインになっていくのかな。東芝はさまざまな事情からまだ有機ELと液晶の両輪で進めていくのかと思っていたので、ちょっと意外です。ただ開発チームと話をしていて、今後はもっと有機ELテレビに力を入れたいという印象も受けたので、彼らにとってはいいことかもしれませんね。
東芝が今年の有機ELで大々的に打ち出したのは、「プロが使うモニターの表現力を家庭でも楽しめる」というものです。新開発の映像処理エンジン「レグザエンジン Professional」が、パネルのガンマ特性や輝度特性に最適化した画質調整をしてくれるんですね。輝度推移やヒストグラムといった細かい映像情報をリアルタイムに表示する機能は、実にマニアック。実機では55型を見ましたが、ハッとするような息をのむ美しさでした。それとREGZAは、内蔵スピーカーにも独自のこだわりがあって、なかなかいい音なんですよ。
ソニーは液晶テレビにもこだわり
小原 有機ELテレビに取り組みながら液晶テレビへのこだわりも捨てていないと感じたのがソニーでした。
小沼 以前、NIKKEI STYLEでも「ハイエンドテレビに液晶 ソニーがあえて投入する理由」という記事が掲載されていましたね。
小原 自分たちの個性をどれだけ出すのかにこだわるメーカーでもありますから、調達元が限られる有機ELよりも液晶のほうが自社でこだわり抜いたテレビを作り込めると考えているのかもしれません。
小沼 ソニーは「A9G」「A8G」の2シリーズを展開。画面を振動させて音を出す「アコースティック サーフェス」がさらに改良を重ねたほか、画面内に明るいところと暗いところが混在するシーンでもきれいに描写できていました。
小原 「A8G」は4Kチューナーが搭載されていないんですね。
小沼 Netflixやゲームなどテレビ放送以外の4Kコンテンツも増えていますし、4Kチューナーは必要ないという人も多いのかもしれません。
小原 とはいえ、ソニー以外のメーカーは全シリーズに4Kチューナーを搭載しています。ここでもソニーの独自路線が目立ちますね(笑)。
小沼 LGは「テレビの使用年数は7年から10年程度。今から数年後に、4K放送がすごく普及している可能性もある」と話していました。たしかに実際に買うとなったら、いまは必要なくても数年後のことを考えてチューナー搭載モデルを選ぶかもしれません。
メーカーの姿勢を知ってテレビを選ぶ
小沼 日本で有機ELテレビを発売している大手メーカーの製品を見てきましたが、小原さんのお薦めはやはりパナソニックということでしょうか。
小原 そうですね。2019年モデルに関しては、パナソニックの有機ELテレビに「この路線を突き進む」という強い意志を感じました。それが新製品の絵作りにも表れていると思います。ただテレビの楽しみ方は多様になってきていますからね。
小沼 ライフスタイルに合わせた多彩なバリエーションを提案するLG、輝度向上と焼き付きのリスク低減などにより有機ELの価値を高めた東芝、液晶にも力を入れつつ有機ELでもこれまでの進化形を提示したソニー。テレビを選ぶときは、そういったメーカーごとの取り組みを知るのも大切だということでしょうか。
小原 そうだと思います。それにしてもテレビを持っていない小沼さんもずいぶんテレビに詳しくなりましたね。でも買わないんでしょう?(笑)
小沼 内覧会で見て、画質のきれいさや迫力に購買欲はそそられたんですけどね。ただ、有機ELテレビは大型しかないので、やっぱり僕の部屋には大きすぎるんですよ。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。200インチのスクリーンを設置する30畳の視聴室に、2018年、55インチの有機ELテレビも導入した。最新有機ELテレビで見たいコンテンツは『GODZILLA キング・オブ・モンスターズ』。「まだ劇場で見ていないんですが、見た友人たちはみんな『あれはできるだけ大きな画面で見るべき』というんですよ」
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。動画サービスはNetflixをパソコンで楽しむ毎日。最新有機ELテレビで見たいコンテンツは『ボヘミアン・ラプソディ』。「今回のメーカー試聴で一部だけ見たのですが、ライブシーンの臨場感が素晴らしくて、ぜひ全編通して見たくなりました」
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