松井玲奈が小説家デビュー 恋愛もホラーも多彩に描写
2018年10月以降に雑誌に掲載された3作に未発表作品3編を加えた、女優・松井玲奈の小説家デビュー短編集『カモフラージュ』。上司との切ない逢瀬(おうせ)を重ねる20代女性を描いた『ハンドメイド』、スプラッターホラーが好きな自身の感性を生かしたという『ジャム』、動画の生配信で3人組が闇鍋をする『リアルタイム・インテンション』など、作品ごとに世界観が異なる色彩豊かな仕上がりだ。
「ファンクラブの会報誌にショートショートを載せようというマネジャーさんの提案が小説らしいものを書くことになったきっかけでした」と松井は振り返る。
読書好きで知られる松井だが、意外なことに自身で書く意欲はほとんど抱いてなかったという。
「読むことだけをずっと続けていくと思っていました。初めてショートショートを書くことになって、短い文章のなかで起承転結があって、意外性のある物語を作り上げる難しさを実感しましたね」。しかしマネジャーの見解は違っていた。小説家としての芽を松井に見出し、出版社の文芸担当の編集者たちに松井の書いた作品を読んでもらい、新作短編の文芸雑誌への掲載が決まった。
「最初に書き上げたのは『ジャム』です。とても楽しみながら書けました。もともと、奇想の画家のボスやブリューゲルの絵が持つ、ちょっと気味が悪い世界観が好きなんですよね。どうしたら読んでいる人に状況が伝わるのだろうか、ということを強く意識して書き上げました」
メイドカフェで働く女子の葛藤を描いた『いとうちゃん』は、実際にメイドカフェで働いた経験のある知人に質問をして書き上げたこと、女性への強いフェティシズムと桃を絡めた『完熟』は、自身が桃を食べながら「桃はフェチの象徴になりうるのでは?」と思いつき、スピード感を持って書き上げたことなど、松井は収録作一つ一つについて、丁寧に着想や世界観を語っていった。
収録作一編一編でテイストが異なるが、実は「食」という共通テーマがある。「何かを食べているときや、食べるもののことを考えているときって、その人らしさが出るのかなと思って"食"をテーマに選びました。物語の漠然としたイメージとモチーフにする食材、そこから考えると主人公は……などと決めていきましたね。わりと細かいことを気にしながら、編集の方と話をしたりして。その後、映像を頭に浮かべながら自分でカット割りをしていくイメージで、1つひとつの物語を作り上げていきました。最終的に6作を並べたときに『タイトルをどうしようか』という話になりました」
どの物語も主人公が本来の自分を隠しているという点が着目され、作品集は『カモフラージュ』と名づけられた。
「まだまだ自分の一番いい形を模索しているところですし、多くの作家の先輩方から、書けば書くだけ文章はうまくなると言われたので、これからもできるだけ書いていきたい。体力がいるので、少しずつ体力をつけていけたらいいなと思っています」
(日経エンタテインメント!6月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)
[日経MJ2019年6月14日付]
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