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老舗企業は社員をオーケストラに見立てている。写真はイメージ=PIXTA

老舗企業は社員をオーケストラに見立てている。写真はイメージ=PIXTA

フラットな組織や引っ張らないリーダーなど、かつての常識をひっくり返すようなチームづくりが様々な職場に広がってきた。東京・亀戸で200年以上も続く和菓子店「船橋屋」で社長を務める渡辺雅司氏が著書『Being Management』(PHP研究所)で語っている、人事制度の見直しや経営改革はその好例だ。同書の副題は「『リーダー』をやめると、うまくいく」。老舗の伝統を守りながら、社員や関係者の「幸せ」に最も大きな価値を見いだす経営のありようを渡辺氏に聞いた。

1年以上も発酵させてつくる和菓子

看板商品のくず餅は、和菓子では珍しい発酵食品だ。しかも発酵に要する日数は450日と、1年を超える。そして、賞味期限はわずか2日しかない。全くの無添加だから、日持ちがしないのだ。添加物を加えて賞味期限を延ばせば販路は広がるが、あえてその道は選ばない。「自然のままが一番。経営も同じ」という渡辺氏の口調から力みは感じられない。無理に売り上げをかさ上げすれば、どこかにひずみやしわ寄せが来ると分かっているからだ。書籍タイトルの「Being」も、自然の理法に逆らわない「あるがまま」を意味している。

毎年春に特別賞与を出している。年2回の通常ボーナスとは別に、だ。3月決算で計上した利益の3分の1を社員に還元する。「みんなの働きで出た利益なのだから、社員に還元するのは当たり前のこと」と渡辺氏はこともなげに言う。これも自然な経営判断なのだ。働き手のモチベーションが上がらないわけがないだろう。ちまたにくすぶる「会社だけがもうかって、自分たちの給料はちっとも上がらない」という不満とは正反対に、決算が一体感を生む仕組みだ。

先代社長の息子だが、ストレートに家業を継いだわけではない。1986年に立教大学卒業後、新卒で三和銀行(現在の三菱UFJ銀行)に入行した。以後は企業融資や債券トレーダーなどの業務を重ね、船橋屋に入社するまで約7年間にわたってマネーの世界に身を置いた。銀行マン時代はバブル経済の真っただ中で、イケイケドンドンの熱気を体験した。しかし、バブルがはじけムードが一変。「目先の売り上げや利益を最優先すると、組織は疲弊していくことが身をもって分かった」(渡辺氏)

社員はオーケストラのメンバーのように

社員をオーケストラに見立てる。それぞれが異なる楽器を持ち、別々のパートを奏でる。でも、その総体が見事な「交響曲 船橋屋」となって響き渡る。「しっかりモチベーションが高まっていれば、社員が勝手に動き出す。細かく指導する指揮者はいらない」。そこまでたどり着くのには20年を要した。「砂地に水をまき続けることが大事。いずれ賛同者は現れる。ポップコーンだって、ずっと熱していれば、最後にはどの粒もはじける。フライパンの熱量さえ落とさなければ」(渡辺氏)

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