街のど真ん中にスポーツを 地域に活力生む「切り札」第1回チャレンジニッポン スポーツ庁・鈴木長官ら講演

パネル討論では「地域の現場でスポーツの価値を磨く」をテーマに、日本ラグビーフットボール協会顧問の真下昇氏、日本政策投資銀行地域企画部長の高田佳幸氏、ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション(USF)代表理事の諸橋寛子氏、シドニー五輪競泳日本代表の萩原智子氏が参加した。司会は榎戸教子キャスターが務めた。

日本ラグビーフットボール協会顧問の真下昇氏

榎戸氏 今、日本ではスタジアムやアリーナの建設計画が相次いでいます。地域活性化をサポートする高田さんはどうご覧になっていますか。

高田氏 現在、スタジアムやアリーナの新設や建て替えの構想が全国で87カ所あります。ただ、つくったものの利用率が低く、維持費がかさんで将来的に地域の負の遺産になっては問題です。そこで、我々はスタジアム・アリーナを街の中核施設として整備することを提案しています。海外では通年の飲食施設や育児施設を併設している例もあり、地域が抱えている課題に対応することで人々が集い、地域経済への効果が生まれると考えています。

日本政策投資銀行地域企画部長の高田佳幸氏

諸橋氏 以前ゼビオグループの経営に携わっていましたが、2012年9月に仙台市あすと長町にアリーナを建設しました。周囲に飲食店がオープンし、隣には病院と、アリーナを中心にどんどん生活が膨らんでいます。また、来年春には青森県八戸市の八戸駅前に「フラット八戸」を開業します。アイスリンクだけでない新しい日本型スポーツ施設として考えており、週末は民間が運営しますが、平日は学校教育で使用するなど、新しい形を提案するつもりです。

萩原氏 二十数年前、中学生の頃にカナダのウィニペグへ合宿に行った際、施設の中にドクターや看護師がいて、病院のような形で来場者のサポートをしている光景を目の当たりにしました。今まで日本全国各地の水泳の競技場に行きましたが、こういった場所はありません。アスリートにとって施設が増えるのは喜ばしいことですが、やはり誰にでも開かれた、地域に愛される施設であるべきだと感じます。

シドニー五輪競泳日本代表の萩原智子氏

真下氏 今まで(の施設)は観客や地域住民へのサービスを考えてつくられていませんでした。ラグビーの話ですが、ウェールズのミレニアム・スタジアムは駅前にあり、試合が終わると観客が周辺のパブに集まります。多くの人は観戦後のセカンドステージで試合の話をしたくてスタジアムを訪れます。そういった意味でもスタジアムに人を集めるだけでなく、どう利用するかという目標があるべきです。

ユナイテッド・スポーツ・ファウンデーション代表理事の諸橋寛子氏

諸橋氏 東京五輪で正式競技に採用される3人制バスケットボールは、2014年に国内でプロリーグがスタートしました。特徴は各地方の既存施設を使用すること。体育館がなくても駅前広場やショッピングモールなどで開催できます。年間500万円があればプロチームを経営できることもあって、地域でお金を出し合えば参画が可能です。五輪の頃までには全国で約100チームほどになりそうです。

高田氏 東京五輪ではスケートボードやスポーツクライミングなども新種目に採用されます。こういったアーバンスポーツをより活性化させ、地域で大会を開催し若者を呼び込もうという自治体の活動は少しずつ増えています。少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少する厳しい環境におかれる一方で、政府はスポーツを成長産業の一つとして市場規模を10年間で3倍にしようと考えています。地域が成長し続けるためにも、厳しい環境の中でどううまく産業を成長させるかということに、懸命に取り組む必要があります。

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<シンポジウムを終えて>

スポーツが地域で果たす役割が注目され始めたのは1993年のJリーグ誕生からだろう。Jの地域密着型クラブは人々の誇りとなり、一体感を醸成するシンボルとして歓迎された。今ではスポーツは地域に活力を生み出す切り札と評価される。人口減が進んで疲弊する地域で、スポーツの活用は重要なミッションとなった。

シンポジウムではスポーツ施設の新設、建て替えの構想が19年2月時点で全国に87拠点もあることが紹介された。その多くに共通するのが、スポーツを中核に街の機能を集約しようとしていることだ。

スポーツのためだけの場所ではない。官民が協力して市街地にスタジアムやアリーナを役所や文化施設、商業施設などとともに整備し、人々が日々訪れ、互いに交流する空間を目指している。文化イベントや防災、住民の健康づくりの拠点となる役割も果たす。にぎわいが街に戻れば、シャッター街の復活にもつながるだろう。スポーツを社会のために役立てることがこれほど議論され、注目を集めるのは初めてのこと。その行く末を、期待をもって見守りたい。

(編集委員 北川和徳)