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合羽橋の料理道具老舗がパリ出店 現地人の心つかむ

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NIKKEI STYLE

日経クロストレンド

東京・合羽橋(かっぱばし)で創業100年を超す料理道具の老舗、釜浅商店がフランスで存在感を高めている。2018年5月、パリに構えた海外1号店が、開業後1年足らずで売り場を拡大。安売りや宣伝をせずとも、口コミで人が集まるようになった。ゆかりのない欧州の地で、なぜ受け入れられたのか。

独力で「合羽橋の店をフランスに」

去る平日の午後。雨天にもかかわらず、途切れることなく、客が訪れる。釜浅商店のパリ店「KAMA-ASA Paris」の日常だ。新たな包丁を品定めするため、包丁研ぎを依頼するために、料理人が足しげく通い、ザルやたわしを求めるパリジェンヌの姿も見られた。

ここは、サンジェルマン・デ・プレ。古くから芸術の街として知られ、伝統文化が息づくパリでも高感度な一等地に、釜浅商店はのれんをあげた。4~5人でいっぱいになる小さな店だったが、19年3月、同じ敷地内で一回り大きな店舗へと引っ越した。

ユニクロ、無印良品など、パリで人気を集める大型チェーン店は数あれど、日本でも誰もが知るわけではない社員20人ほどの小さな専門店が、パリで成功を収めるのは珍しい。

欧州への進出を目指す日本企業の多くは、専門業者やコンサルタントを雇い、高額な出展料を払って見本市に参加する。しかし、釜浅商店の場合は違った。蛭田恵実店長は、開店に向けた準備は「すべて自分たちでやった」と胸を張る。

「プロだからできることもあるだろうが、商品を熟知し、お客さまのニーズを肌で学んでいる自分たちだからこそ分かること、できることは多い。メンバーの一人一人が責任を持って進めること、自分たちが発する言葉ですべてを進めていくことで、時間がかかっても、最終的には無駄のない、自分たちにぴったりの結果が生み出された」(蛭田氏)。

飾り気ひとつない、合羽橋店と同じシンプルなショーケースや棚に、ただまっすぐに商品が並んでいる。包丁、鉄打ち出しフライパン、南部鉄器の浅鍋、持ち運びが簡単な七輪、炊いたご飯をおいしく保つ木製の「江戸びつ」、網目が細やかなザル、自然素材のたわし、素材の味を引き出す銅のおろし金、先端が丸まったステンレスのトレー。日本と比べるとほんの一握りだが、どれも伝統に裏打ちされ、考え抜いて作られた実用性の高い逸品をそろえた。

流行などどこ吹く風。どの品も、生み出されたその時代の姿のまま、今に至り、並んでいる。それは音を出すことを使命として作られた楽器たちや、陽光を受けるために葉を広げる植物が、存在として永遠に変わらない美しさを持っているのに似ている気がする。

店の目印は、入り口ののれんだけ。来店客が迷わないようにと設置した看板も、シンプルな木造りだ。「フランスのお店だからこうしようではなく、日本での視点をそのままに、合羽橋の店がパリにある、という感覚を持ち続けている」(蛭田氏)。そんな姿勢が、古きものを大切に使い続けるフランス人の心を打ったのだ。

料理道具ならぬ「良理道具」の哲学

釜浅商店が創業したのは、1908(明治41)年。初代熊澤巳之助氏の時代は、熊澤鋳物店と呼ばれていたが、2代目熊澤太郎氏により53年、「釜」を売る「浅草」にある店と言う意味で、釜浅商店となった。

まだ大釜しかなかった時代、太郎氏は1人分でもご飯が食べられるようにと、小さな1合炊きの釜を考案。これが、釜飯の発祥だとされる。その後も、日本各地の職人とコラボレーションし、さまざまな料理道具を生み出した。日本全国からこれぞという料理道具を探し出し、買い付け販売もしている。

かっぱ橋道具街全体が不況に直面し、客入りの厳しい時期もあった。釜浅商店は11年に店自体をリブランディグ。ロゴやショップツール、Webサイト、インテリアなどを、以前より分かりやすく、現代的に改めた。12年の東京スカイツリー開業の追い風にも乗り、にぎわいを取り戻した。

「リブランディングといっても、店のイメージを一新するのではなく、それまで培ってきたものを整理し直して目に見える形にすることだった」。04年から社長を務める4代目熊澤大介氏は、そう振り返る。その過程で、「良い道具には良い理(ことわり)がある」というコンセプトが生まれ、料理道具ならず「良理道具」と呼ぶようにした。

釜浅商店が、パリにデビューしたのは、14年4月のこと。知り合いの日本人が経営するサンジェルマン・デ・プレのギャラリーで、期間限定型のポップアップストアを開いた。

その後、流行の発信地として知られるパリ右岸のマレ地区でも16~17年にかけ、「ブランマント(Blancs Manteaux)」や「スウェイギャラリー(Sway-gallery)」といった日本発のギャラリーで、ポップアップストアを次々と開催。17年には、パリ中心部にある無印良品の旗艦店レアール店からも声がかかり、包丁研ぎを体感できるワークショップを展開した。

このようにフランス人と触れ合うことにより、どんなものが売れるか手応えをつかみ、満を持してパリに常設店を構えた。18年のオープニングレセプションには、過去にポップアップストアを訪れた客が、知り合いを連れて足を運んだ。「良理道具」という理念が、フランスでも受け入れられた瞬間だ。

安売りはしない経営哲学

店内に並ぶ包丁は1本、最低でも61.2ユーロ(約7500円)。最高で2854.8ユーロ(約35万円)もする。フライパンは20センチで60ユーロ(約7300円)、26センチで73.2ユーロ(約9000円・いずれも税込み)。安売りはしない。「高額と感じられるかもしれないが、長く使える。長く使うには、丁寧な手入れが必要となるので、メンテナンスに関してもきちんと説明する」(蛭田氏)という。

ずっと使い続けてほしいと願うからこそ、手にとって選んでもらうことを心掛ける。何を欲しているのか、どういう状況で使うかを聞き取った上で、一人一人にぴったりなものを共に見つけるようにしているという。「すべての製品に対し、十分な知識を持つようにしている。質問されて『分からない』とは返事できない」(蛭田氏)。

実は、パリへの出店に際し、釜浅商店は広告を打たなかった。「最初の頃にオブニー(パリの日本人向け無料新聞)に一度小さなお知らせをしただけ。皆さん、ほぼ口コミ」と蛭田氏は語る。

いつしかフランス国外からの来店客も増え、19年5月には英ロンドンでも初のポップアップストアを開催した。19年7月1日には、南部鉄器の産地・岩手県盛岡市や、釜蓋を作る長野県の生産者と共に、3年を費やして生み出した「釜浅のごはん釜」を、合羽橋店とパリ店で同時発売する。

この先、グローバルに店を拡大するつもりはないという。「国外の店で日本の道具の素晴らしさを知ってもらい、合羽橋の釜浅商店にきてほしい。ここにはないものがたくさんあり、もっと手助けできることがある」と蛭田氏は語る。日本の伝統文化が、遠い欧州の地で、静かに確実に広がり始めている。

(ライター 永末アコ)

[日経クロストレンド 2019年6月6日の記事を再構成]

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