日比谷音楽祭に賛同 劇場を出て野外へ(井上芳雄)第46回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。東京の日比谷には、帝国劇場や東京宝塚劇場などミュージカルを上演している劇場が立ち並んでいます。その目と鼻の先にある日比谷公園で6月1・2日、「日比谷音楽祭」が初めて開催されました。2日には「日比谷ブロードウェイMusical Stage」と銘打ち、僕と田代万里生くん、屋比久知奈さんの3人が野外ステージで歌いました。

6月2日の日比谷音楽祭「日比谷ブロードウェイMusical Stage」の野外ステージに立つ(左から)屋比久知奈、井上芳雄、田代万里生

日比谷公園には「野音」の名称で親しまれ、ミュージシャンにとっては武道館と並ぶ音楽の聖地である大音楽堂をはじめさまざまな施設があります。その公園を舞台に、「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」というコンセプトで開かれたのが日比谷音楽祭です。公園内の各所で、いろんなジャンルの音楽プログラムが無料で開催されました。

僕たちのステージは、ONGAKUDO(小音楽堂)を会場に6月2日の16時からスタート。曇り空の下、ミュージカルソングとトークによる30分のステージを披露しました。ピアノ演奏をバックに、オープニングは3人で『ショウほど素敵な商売はない』を歌唱。トークをはさみながら、万里生くんと屋比久さんが『塔の上のラプンツェル』から『輝く未来』、僕と屋比久さんが『モーツァルト!』から『愛していれば分かり合える』、そして僕と万里生くんが『エリザベート』から『闇が広がる』と、それぞれ3曲ずつデュエットして、ラストは3人で『アニー』から『トゥモロー』を歌いました。

万里生くんとはいろんなところで一緒に歌っていますが、屋比久さんとは舞台上では初めて。素晴らしい歌声で、発声が欧米のシンガーのようで圧倒されました。英語もできるし、将来がとても楽しみです。それでいて、「しっかり練習して、準備しないと不安です」とも言っていて、そういう謙虚で真面目なところもすてきでした。

小音楽堂は日本初の野外音楽堂として1905年(明治38年)に完成して、関東大震災で倒壊しましたが、再築されて今に至っているそうです。そんな由来を、万里生くんがトークで紹介してくれました。

お客さまは1000人以上でしたが、公園自体が広いのでそれほどの数と感じないくらいでした。緑が多く、開放感があって、劇場で客席を見るのとはまた違った光景が目の前に広がっていました。僕は野外であまり歌ったことがないのもあって、緊張しましたが、一方で何とかなるんじゃないかというラフな気持ちもありました。声がどれくらい通るか分からないし、ステージの後ろにも人がいるし、状況を読み切れないので、出たとこ勝負みたいな感じです。ほかの2人も同じように感じていたそうです。お客さまもそんな気分だったかもしれませんね。みんなが手探りながらも、いい雰囲気でやれたように思います。

この音楽祭の開催を呼びかけ、実行委員会の委員長を務めたのは音楽プロデューサーの亀田誠治さん。「フリーで誰もが参加できる、ボーダーレスな音楽祭」のフリーには3つの意味があって、「無料」のフリー、「楽しみ方の自由」のフリー、「さまざまなボーダー(性別、障がいの有無、国や地域の境、音楽ジャンルの違い、世代の差、経済格差など)からの解放」のフリーだそうです。

ミュージカルに触れてもらうために

無料のフリーは、すごいことです。幅広い世代の人が来られるし、そこでいろんな音楽にふれるきっかけになりますよね。ふだんミュージカルを見たことがない人に触れてもらう機会を作ることで、すそ野を広げたいという僕たちの思いとも合致しています。

さらに、これも万里生くんから教えてもらったのですが、まずは無料だけど、そこで新しいジャンルやミュージシャンを知ることで、次はお金を払って見に来ようとなって、それが作り手や演者に還元される。だから、先を見据えて、種をまくという意味でのフリーでもある。その話を聞いて、たしかにそうあるべきだ、と。無料にするためには、協賛金や助成金、クラウドファンディングで資金をまかなうなど運営は大変だったと思います。すごく意義のある音楽祭だと感じました。

ボーダーからのフリーも、今のエンタテインメント自体が目指しているところでもあります。ミュージカル界にもまだまだ閉鎖的なところがあるし、僕たちもボーダーレスでありたいと思っています。だから音楽祭の趣旨に賛同できたし、参加できてよかった。

音楽祭は来年も開かれるそうです。今年は、準備の時間が短かったこともあり、参加することに意義があるという感じでしたが、実際にやってみて、もっといろんなことができるかもと思いました。今回はこのミュージカルステージのために作ったオリジナルTシャツを着てステージに立ちましたが、例えば衣装を着てみるとか、ミュージカルの一場面を見てもらうとか、メンバーの人数を増やすとか、バンドを入れるとか、やれることの夢は広がります。

日比谷の劇場街と公園は、本当に目と鼻の先です。僕たちは、いつもは劇場という建物の中で歌ったり、お芝居をしたりしているのですが、一歩外に出れば、緑豊かな広大な公園が目の前に広がっています。その開放的な空間の野外ステージに立って、劇場から文字通り外に飛び出し、多くの人にミュージカルの魅力を知ってもらうことも大事だと、あらためて感じました。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第47回は7月6日(土)の予定です。