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世界の川侵す抗生物質汚染 耐性菌由来の病死広がる?

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/6/24

ナショナルジオグラフィック日本版

バングラデシュのブラマプトラ川。バングラデシュには、川の水に含まれる抗生物質の濃度が基準値の300倍を超えている場所がある(PHOTOGRAPH BY JONAS BENDIKSEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

抗生物質が使われる量は年々増加している。この薬は公衆衛生に驚くべき効果を発揮し、命にかかわる感染症から何百万もの人々を救っている。

しかし、人体で役割を果たした後も、この優れた薬は自然環境に影響を及ぼし続ける。体外に出た抗生物質はそのまま残り続け、薬が効かない「薬剤耐性菌」の進化をうながす可能性があるからだ。

英ヨーク大学の研究者らが、フィンランドで開催された環境毒性学化学会欧州支部の学会で2019年5月27日に発表した最新の研究によると、テムズ川からメコン川、チグリス川など、世界中の91河川を調査したところ、3分の2近くで抗生物質が検出された。

この研究を率いた1人であるヨーク大学の環境化学者アリステア・ボクソール氏は、これは大問題だと話す。「生理活性物質である抗生物質を、私たちの社会は自然環境に大量に排出しています」

その結果、川の生態系だけでなく人の健康までもが、重大な悪影響を被る恐れがあるという。

■2050年には感染症が死因のトップに?

薬剤耐性菌に感染すると、ときには治療不可能な場合もある。英国の首席医務官を務めるサリー・デイビス教授は、問題は年を追うごとに深刻化しており、将来は簡単な感染症の治療さえ困難になるような「壊滅的な脅威」をもたらす恐れがあると指摘している。

2016年の報告によれば、薬剤耐性菌に感染して命を落とす人は、全世界で毎年約70万人に上るという。よく使われる抗生物質への耐性菌が増えれば、この数字が跳ね上がるのではないかと専門家らは危惧する。英国政府の委託を受けた2014年の研究では、薬剤耐性菌による感染症が2050年までに世界の死因のトップに躍り出る可能性があると警告した。

そして、抗生物質が自然環境に流出する「抗生物質汚染」は、その耐性菌の出現を加速させる一因となる。さらに、河川や小川の微妙な生態系バランスを崩し、細菌群集の構造を変化させる。

もしそうなれば、生態系のあらゆるプロセスに影響が及ぶ可能性もある、と米ニューヨーク州ミルブルックにあるケーリー生態系研究所の水域生態学者エマ・ロージ氏は話す。川の生態系では多くの細菌が、炭素や窒素といったごく基本的な栄養の循環を助けるなど、重要な役割を果たしているためだ。

ところが、いつ、どこで、どれくらいの抗生物質が自然界に流れ込んでいるのかを、科学者はまだしっかり把握できていない。河川の抗生物質の濃度に関するデータがほとんど、またはまったくない国がたくさんある。そこで、ボクソール氏らは問題の全体像を描き出すことにした。

■下水処理場でも完全には取り除けない

ボクソール氏らは世界規模で協力者を募り、近くの川で試料を採取してもらった。その数は、南極を除く全大陸の計72カ国に上った。協力した科学者らは、橋や桟橋からバケツで川の水をくみ、ろ過し、冷凍した試料を英国に送った。

広く使われている14種類の抗生物質が試料に含まれているかどうかを調べたところ、全試料の65%から、少なくとも1種類の抗生物質が検出された。検出されなかった大陸は存在しなかった。

「文字通り、世界規模の問題です」とボクソール氏は言う。

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