それなのに、私は会議で選択肢A、B、Cを提示したりしていた。AとBは僅差だよねなんて話を経営者がしてしまうと、チームに迷いが出ます。迷いが出ると成功の確率は間違いなく下がります。選択肢を示すより、とにかく決断が早いほうがいいこともありますよね。私がいつも言っている「正しい選択をしようとするより、その選択は正しかったと思えるようにしよう」というのは、まさにこのことなのです。
――(林)DeNAを起業すると決めたとき、真っ先に何をしましたか。
仲間をつくりました。起業に迷いは無かったけれど、やはり1人では心細いですよね。この仲間がよかった。最初に声をかけたのはマッキンゼーにいた川田尚吾氏。起業の経験もあったので、相棒として彼を選んだのは大正解でした。このほかにも、リクルートとかIBMにいた人たちが来てくれました。彼らが「南場さん、社長ならこういうふうに決断してほしい」などと教えてくれたんです。コンサルタント的な発想の私を、仲間が経営者的な発想に引っ張ってくれたと思います。
「親が喜ぶ」という尺度で就職を決めないで
――(U22)自分の尺度で生き始めるのが遅れたと感じている南場さんから、今の20歳前後の世代に贈るアドバイスはありますか。
20歳前後というのは、世の中のすねかじりから社会の一員に変わっていくタイミングです。就活は、初めて偏差値がない、大きな意思決定ですよ。中高大と偏差値という尺度の中で自分の手が届く一番いいところを選んできたと思うけれど、それはすべて他人の尺度。他人の尺度で選択している限り、あなたはあなたの人生を生きているとはいえません。職業選択は初めて、他人の尺度から解放されるチャンスです。絶対に「親が喜ぶ」とか「友達にドヤ顔できる」という尺度で就職を決めないでほしい。
自分が夢中になれるものは何か、自分の心に聞いてみてください。正解が1つというような日本の教育を受けていると、夢中になる能力がどんどん失われてしまうんですけれど、20歳くらいになったら、できるだけ意識的に、自分の夢中になるものを自分で見つけて、自分で選んでいってほしいなと思います。

南場さんとお話をして、起業家に必要なのは、自分の「夢中」を見つける力、そしてそれを好きな仲間に伝える力だと分かりました。何が正解なのかを迷わずに自分の「好き」に忠実でいること。情報があふれている社会に生まれた私たちには圧倒的にそれが足りないです。正解が何なのかずっとわからないまま、ちょっとでも正しそうなものを選ぼうと頭がパンクしそうになっている。自分の人生に対しては誰もが起業家であるといえます。「どの道が正解かを悩む時間があるのなら、自分の選んだ道を正解にするところに時間をかけよう」という言葉を胸に、私も行動しようと思います。