父から少しでも離れたくて、大学4年で米国に留学しました。父が留学費用を出してくれるわけがありませんから、必死で勉強して大学から奨学金をもらいました。父は留学にも反対しましたが、最後には折れてくれた。それで、留学中は毎日のように文通したんです。この時になってようやく、父を一人の人間として見ることができるようになりました。父の筆跡をみて、文章を読んで、意外とユーモアのある人なんだなって初めて気づいた。亡くなるまで怖くて仕方なかった父でしたが、この文通のおかげで「怖いだけの人じゃない」と、乗り越えられたように思います。

――(U22)大学卒業後にマッキンゼーに就職したのは自分で決めましたか。

就職は父に決められたわけではないのですが、自分の尺度で決めたわけでもありませんでした。マッキンゼーは当時ものすごく人気があって、みんなこぞって受けているから自分も受けてみようかなという程度。コンサルタントって何なのかもまったくわからないまま、就職を決めてしまいました。入社してからコンサルタントの仕事の厳しさを知りました。あんまりつらくて、逃げるようにハーバードに留学したほどでした。

DeNAを起業してから初めて、私は自分が事業が大好きなんだということに気づいたんです。当時、もし本当に自分の尺度でちゃんと決めていたら、コンサルタントという道は選ばなかったでしょう。

「若いときから事業に関わらせてもらえる会社に身を置くのがいい」

――(林)事業を自分でしてみたいなら、コンサルタントでは勉強になりませんか。

コンサルタントがダメと言っているんじゃないんです。でも、会社の経営や事業に興味があるなら、若いときから事業に関わらせてもらえる会社、小さくてもいいから事業の起承転結に自分でちゃんと携われるような会社に身を置くのがいいと思っています。あるいは、事業の神様みたいな経営者の横でカバン持ちをするような経験は、学びが多いでしょうね。

私の場合、起業してから、コンサルタントとしての経験が足を引っ張ったことも多くありました。そもそもコンサルタントはパートナーになるまで稼がなくていいから、収益の感覚が育ちません。人にアドバイスする立場だから話し方も理路整然と偉そうになって、かわいがられないキャラクターが身についてしまうんです。これらはすべて、経営者としてはマイナス要因でしかない。私は10年もコンサルタントをしましたから、えらい論理的な人になっちゃって、ヤバかったですよ、本当に。

■起業できたのは仲間の力があったから

――(U22)コンサルタントから経営者に転身して、どんな苦労がありましたか。

自分を事業の世界で求められる姿にシフトさせるのに、時間がかかりました。コンサルタントは選択肢を複数提示するのが当たり前ですが、経営者は「これ!」と決める力が求められる。簡単な話でいえば、例えば会社のロゴの色をどうしましょう?というような決断を求められたときに、「最近のトレンドだとこっちだが、あの色はこういう効果があって……」などと理論を述べることは、経営者には求められていない。むしろ「私はこの色が好きだからこれにしよう」っていう決断力が必要なのです。

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「親が喜ぶ」という尺度で就職を決めないで