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食の達人コラム

エリート男子高校生も料理すれば体感 試行錯誤の喜び 土屋敦の男の料理道(8)

2019/6/15

2学期にはさらにバージョンアップし、野外のたき火で調理する=PIXTA

これらの「成功」は、失敗をちゃんと拾えたからこそ生まれたものだ。栄光学園での授業でも、生徒たちがこれまでの料理の常識からは「失敗」とされることをしたときに「それは違う」と言ってしまったら、彼らオリジナルの新しい味は生まれず、その創造性をそぐことになる。だから、「料理の常識に沿っているか」をチェックして注意するのではなく、彼らの失敗や、常識を超えた調理法をいかに拾えるか、が大切になるのだ。

「レシピ通りに作らせられる」のではなく、彼らそれぞれが自分なりのやり方で料理に取り組む。そしてそのやり方をわれわれが認められれば、生徒たちは目を輝かせて熱中し、彼ら自身が納得できる味になるまで、楽しそうに試行錯誤をし続けるのである。

そして、料理のおいては「成功」もまた、新たな失敗のベースになる。料理をおいしく作れたと思った瞬間、もっとおいしくできるかもしれない無数の方法が頭に沸き起こっている。そしてそれを試し、またたくさん失敗し、試行錯誤する。何度も成功の喜びを味わいながら、幾度となく失敗し、永遠に試行錯誤を続けるーーこれをありふれた日常生活のなかでやり続けられることこそが、何より料理のすばらしいところだろう。

ゼミが始まった1学期は、「先生、このやり方であってますか?」と聞いてくる生徒たちが多い。それがやがて「先生、邪魔なんで、そこどいてください」なんて言ってくるようになると、心の中で「やった!」と思う。

当初、「先生この味でいいかどうか、味見してください」と言っていたかわいい生徒たちが、自分たちだけで味見してどんどん作業を進めていくようになり、私が「お願い! 味見させて!」と頼んでもイヤそうな顔をするようになるのはちょっとさびしくもあるのだが、料理を作るとは、本来、ほかならぬ自分自身こそを頼りにして試行錯誤を繰り返しながら進んでいくことだし、「学び」全般が、本当はそうあるべきだとも思う。

もう1つ、このゼミで大切にしたいと思っているのは、五感を研ぎ澄ますことである。料理に必要な感覚というと、まずは味覚、加えて嗅覚と思うかもしれないが、実は、調理の過程、特に加熱の工程では触覚、聴覚、視覚も非常に重要である。例えば、肉を焼くとき、まず、手で塩をつかんだ感触で、どれぐらいの塩を肉にまぶしつければいいのかをなんとなく感じられるようになってもらう。

フライパンに油と肉を入れて火をつけたあと、音の変化によって、温度を感知してもらう。肉に火が通っていく過程では、たんぱく質の熱変性を、手で触った感触や見た目の変化で感じてもらう。〇度で〇分焼けば火が通る、といったことではなく、五感を研ぎ澄ました状態で、おいしい肉の焼き上がりを察知できるようになることを目指すのだ。

さらに、適切な塩加減で絶妙な具合に加熱がなされれば、肉や魚は、ステージが1つ上がるように一気に美味になることも体験してもらいたいとも思っている。これを経験すると、ほぼ例外なく、料理がぐっと上手になる。

この五感を研ぎ澄ませて、食材へ加熱を行う授業は、2学期にはさらにバージョンアップする。野外のたき火で調理するのだ。いわば、人類の調理の原点ともいえるやり方を通して、自然の中で最大限、五感を使って料理することを堪能してもらうのだ。

クラスに参加している高校1年生は、時間がたつとともに大学受験を意識していくことだろう。だからこそ、失敗や誤答に価値を見いだすことが難しい受験勉強の世界から離れて、たくさん失敗しながら新しいものを創造し、それを五感で味わい尽くす喜びを体験してもらいたいと思っている。

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