「公式の場は白い服」 エステー社長のブランド戦略
WOMAN EXPO TOKYO 2019
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エステーの鈴木社長 女性の視点、経営に生かす
エステーの鈴木貴子社長は「会社と自分を成長させるルール」をテーマに講演した。女性の視点や外資系でラグジュアリーブランドマーケティングやブランディングに約20年従事した経験を経営に生かし、消費者に愛される会社をどう目指してきたかを説明した。
2013年に社長に就任した鈴木社長は「最初は社長が女性でも男性でも変わらないと考えていたが、女性リーダーであるがゆえに常識とされていたことをおかしいなと思う機会があった」と話す。
同社のトイレ用消臭スプレーのデザインを、香りをイメージするイラストに変えた。「以前はなんと便器の絵がついていた」という。「男性社員は商品の機能価値はよく理解する。一方で、女性なら『こんなの部屋に置きたくない』とすぐ分かるが、男性にはデザインや香りといった情緒価値をなかなか理解してもらえなかった」と振り返る。
「男性が中心になって回してきたビジネス界の空気を変えるには、女性たちが自分の強みを知って堂々と声をあげる必要がある」。女性であることに加え、他の業界や外資系企業で働いたことが役立った経験から「強みだと自覚していないことが実は大きなアドバンテージだったりする」と語った。
自身のブランド価値を高めるために「自分が掲げるビジョンや戦略、発言が一貫するように心がけている」と話す。公式の場での服装を白色で統一していることもブランド戦略の一つだと明かした。黒や灰色のスーツ姿の男性が多い中でぱっと目を引くほか、「(汚さないように)食べ方がきれいになるし、背筋も伸びる」。
子どもの時から意識していたという心豊かな暮らしの実現を胸に「多くの方々から親しまれて愛される会社でありたい」と締めくくった。
野村アセットマネジメントの中川社長 目の前のチャンス、逃さずに
4月に女性初の社長に就任した野村アセットマネジメントの中川順子社長は「キャリアアップのチャンスを逃さない生き方」と題し講演した。一般職から総合職への職種転換や、会社を退職後に復職した経験をもとに女性のキャリア形成について語った。
中川氏は入社後から今まで、与えられたチャンスを「まず受け取ってみよう」と前向きに捉えてきた。1988年に野村証券に一般職で入社。当時は女性は結婚退職が当たり前だった。社長になるなど考えられなかったが、社内の様々な仕事に興味を持ち始めるようになった。職種転換の制度に先輩が手を挙げた影響もあり「きっと機会が増えるはず」と3年目で総合職に転換した。
その後夫の海外転職が決まり、選択を迫られた。「これまで好きに仕事をしてきたので、思い切って(赴任先の)香港に付いていこう」と2004年に退職した。4年後に帰国。元上司と連絡を取っていた縁もあり、「どんなポジションでも仕事内容でもよい」という思いで野村証券のグループ会社に喜んで飛び込んだ。
復職した08年に社長に就いた。チャンスの度に悩むが、責任あるポストを目の前にして思いをはせるのはチャンスをくれた人だ。「私に任せると決めた人の思いを真っすぐに受け止めよう」と考えてきた。
現在は投資や運用に関心が小さかったり「怖い」と感じたりしている人に資産運用を勧めることに力を入れる。「企業に投資することは資産形成に加え、社会貢献の側面がある」と強調する。顧客の将来の楽しみにつながるように、裾野を広げたいと考えている。
女性が男性と同様にキャリアを引き継げるように、今後はできることを手がけたいという。「また自分の前にチャンスが差し出されれば、つかんでみようと思う」と話した。
女性リーダーが議論 キャリア築く「マイルール」
「プレミアムセミナー」には4人の女性リーダーが登壇。フィリップス・ジャパンスリープ&レスピラトリーケア事業部事業部長の安部美佐子氏、三井物産人事総務部ダイバーシティ経営推進室室長の中山あやこ氏、KPMGコンサルティング製造セクター/I&D推進シニアマネジャーの千田尚子氏、日本電産企業戦略室長の中川由美氏が、女性がキャリアを築くための「マイルール」について意見を交わした。(文中敬称略)
司会 現在の自分は20代の頃に思い描いていた姿と同じですか。
中川 20代の頃に明確なキャリア像を描いていたわけではないが、ずっと海外を飛び回る仕事をしたいと思い、キャリアを描いてきた。子供の頃からやりたいと思っていたことを、今実現できている。
中山 「こうなりたい」という理想像は持たずに入社した。「道のないところに道を作る」というキーワードにひかれて当社に入社し、懸命に仕事をしてきたところにキャリアが伴ったという感覚だ。ちなみに、小学生の頃の夢は専業主婦だった。
司会 20~30代のうちに経験しておいてよかったことはありますか。
安部 自分の経験で大きかったのは1社目に入社した外資系企業が日本オフィスを閉じることになり、ある日突然失業したこと。会社がずっと存在し、自分の面倒を見てくれると思っていたのでぼうぜんとした。無理やりのキャリアチェンジになったが、「自分のお金は自分で稼ぐ」ことを身をもって体験したからこそ今があると思っている。
千田 オフの時間に美術や演劇など仕事とは異なる側面に触れるようにしている。環境は常に変化する。一見関係ないように見えても仕事に活用できることもあり、仕事で専門性を究めつつ異なる文化に触れることは必要だと思う。
司会 皆さんはリーダー職を目指していましたか。
千田 個人競技が好きで、リーダー職をあまり意識してこなかった。今でも自分がリーダーだという感覚は少ない。チームをまとめることはあるが、それぞれのメンバーとは常に対等に接している。一方で個人としての限界があるのも事実。業務のなかでよりよい結果を出せるように、協力し合っている。
安部 20~30代のときは行き当たりばったりでリーダー職は考えていなかった。社内でステップアップを続けるうちに、営業職として数字をもっと伸ばしたいと向上心が出てきた。自分1人では限界があり、チームとして目標に到達しようとする過程で、リーダーになりたいと思っていたようだ。
司会 ワークライフバランスを保つコツは。
中山 自分という人間は1人なのに、仕事とプライベートでバランスをとらないといけないという考え方に違和感がある。「ワークライフマネジメント」ができてますかと問われればイエス。仕事と家庭での時間の整理をしながら過ごしている。
中川 仕事と家庭のバランスというと、仕事の割合が多い。1日で仕事の時間が多くなるなら1週間単位で、それが難しければ1カ月のなかでバランスをとる。多忙なとき、家族には「今は忙しいけれど、その後は一緒に過ごそうね」と話している。
(司会ははぴきゃり社長の金沢悦子氏)
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