セカオワ あえてシティーポップやる意味(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(10)

日経エンタテインメント!

この連載も今回で第10回目。記念すべき10曲目はSEKAI NO OWARIの『YOKOHAMA blues』。2019年2月に2枚同時発売した、4年ぶりのアルバム『Eye』『Lip』の後者のリード曲だ。

実はだいぶ前にこれを作曲したNakajinに聴かせてもらっていた。アレンジはいわゆるシティーポップど直球であり、七尾旅人さんが12年にリリースした『サーカスナイト』がパッと頭に浮かんだ。僕が大好きな曲だ。そもそもシティーポップというのは都会的なポップスというなんとも曖昧なジャンルで、始まりは1970年代後半あたり。しかし今現在のシティーポップはサブカル寄りで、その流れを作ったのは旅人さんだと僕は思っている。彼以降、こういうループフレーズに、お洒落な旋律を乗せた曲を歌うアーティストが格段に増えた。それもあって現在シティーポップ的アレンジには正直、食傷気味だ。しかしセカオワがやると妙に新鮮なのだ。

セカオワというとみんな何を思い浮かべるだろうか。4年前に発売したアルバム『Tree』の曲たちだろう。『RPG』『Dragon Night』など国民的にヒットした曲が目白押しだったが、当時彼らはちゃんとした評価を受けていなかったように思う。ただ『RPG』は今聴いてもメロディーが秀逸で、アレンジも他のバンドと違って異質だった。ミュージカル的アレンジなのにしっかりJ-POP的な歌であり、何より純粋な耳をした子どもたちに響いていた。子どもが聴けば親が聴くし、運動会でセカオワの曲ばかり使われていた時期もあったほど。これこそ国民的大ヒット曲だ。

ただ大衆にウケればウケるほど、その裏で自分たちのもっと音楽的な部分をフィーチャーして聴いてほしいという思いが、『Tree』以降彼らの中で強くなっていったように見受けられた。その後は、アメリカのロックバンドであるDNCEや、小沢健二さんとのコラボなど、精力的に音楽的なリーチをした作品をリリースしている。

そんな活動を経て今回の2枚のアルバムが生まれたわけだが、簡単に言えば、音楽的要素が強いのが『Eye』で、ポップ的要素が強いのが『Lip』だ。そんな『Lip』の1曲目である『YOKOHAMA blues』に話を戻そう。食傷気味なはずのシティーポップアレンジが、セカオワだと新鮮に感じたと前述したが、それは彼らが旅人さん以降のサブカル寄りなシーンとは違う、国民的ポップアーティストだからだ。普段テレビで流れている音楽しか聴かない人にとっては、このアレンジが新鮮なのだ。

そして僕みたいな音楽オタクでも、セカオワがやるからこそ新鮮味を味わえる。きっとNakajinはこのアレンジをあえて取り入れたんだと思う。自分たちの出自を分かっているから。でもね、そんなことより何よりめちゃくちゃ良い曲なんですよ。「名が売れて良いこともあったけど悲しいこともあった」なんて歌詞はセカオワが歌うからこそ説得力があるし、サビのメロディーは『Tree』以降の様々な音楽的要素の吸収からか、落ち着いた本当に良いメロディーだ。Fukaseくんの声質はハイトーンなのだが、昔から張って歌うような種類ではなく、ハイトーンのイメージなのに歌ってみると落ち着いていて、キーが高くないことが多い。張って歌わずとも感情に訴えかけることができる稀有な声だ。言い換えれば、声を張ったりする感情増強剤のようなものがなくとも、心を揺さぶれるほど良質なメロディーなのだ。

あと僕はやっぱりセカオワの4人が好きだ。みんな音楽と共に生きているあの感じがたまらない。Nakajinは僕の数少ない音楽やギターを語れる友達だし、Saoriちゃんは飲み仲間、Fukaseくんは尊敬するアーティストで、DJ LOVEくんはラーメン情報交換仲間(LOVEくんは音楽も詳しい)だ。彼らの認識が変わるこの2枚を、まだ聴いてない方はぜひ!

P.S. Saoriちゃんのピアノが僕は大好きだと今回改めて実感しました。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして幅広く活躍。ゲスの極み乙女。の新曲『秘めない私』を現在配信中。9月15日には、メジャーデビュー5周年記念ライブも。

[日経エンタテインメント! 2019年5月号の記事を再構成]

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