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中小の事業継承追う「ハゲタカ」の視線 作家真山仁氏

2019/6/13

――本作でも、金型工場の再生に当たる芝野が巨大ファンドによる買収の危機に直面した際、自社の価値をどこに見いだし、それをどんな手段で守り抜くのかが大きなテーマです。

必ずしも会社が延命することが「生き残る」ことではないと思います。自社の強みや他社にはない価値はどこにあって、何を遺すべきなのかを経営者は常に意識しておくべきですが、それが分かっている中小企業は実は多くない。発注側の意向に従い、納期に遅れないよう出荷することに追われるうちに、自社のアイデンティティーが見えなくなっているケースはたくさんあります。

そんな企業が自社の価値に気付くきっかけは大きく2つ。一つは他社からの買収工作であり、もう一つが経営危機です。どちらも実際に起きたら厳しい状況ですが、小説やドラマで疑似体験できたら「この会社は、まるでうちと同じ状況じゃないか」と気付くことができる。『スパイラル』が様々な立場で中小企業に関わる人に、何らかの気付きを与えることができたらと願っています。

――中小企業が真の意味で生き残れる環境づくりのために、どんな施策が有効だと考えますか。

国が業界団体や企業に補助金を出すのではなく、金融機関がリスクを取って企業の成長や再生にお金を出すべきだと思います。そして国は、リスクを取った金融機関に対して支援をする。投資した企業の経営がうまくいかなくても、国の支援という「保険」があれば、金融機関はリスクをもっと取りに行けます。金融が「経済の血液」という本来の役割を果たせる仕組みが必要です。

緻密な取材と想像力で
もう一つの「真実」を提示する

――ハゲタカ本編では、東日本大震災と原発事故をテーマにした『シンドローム』を18年に刊行しました。深刻な原発事故を前にパニックに陥る国や経済界に対し、鷲津が原発事故を起こした「首都電力」の買収に挑むという壮大なストーリー。「3.11」をテーマに選んだ理由は。

「ハゲタカ」シリーズは、スピンアウトを含む7 作品で累計260万部超の大ベストセラーに

ハゲタカシリーズの作品はどれも、各章の最初に日付と場所を入れていますが、読者から「その日自分は何をしていたかを考えながら読んでいる」という声が寄せられるようになりました。経済小説としてだけでなく歴史小説のように読まれていて、社会の出来事や自分の人生とリンクさせながら読んでくれているのです。

だからこそ、日本経済に大きなインパクトを与えた出来事は書かなくてはならない。『グリード』ではリーマン・ショックを書きました。そして当然、国家的危機に直面した東日本大震災と原発事故も書く必要があると考えました。

もう一つの理由は、私が震災以前からエネルギー問題をテーマとする小説を書いてきたことです。『ベイジン』(08年)は原発の建設と事故を、『マグマ』(06年)は原発に代わる地熱発電の可能性を扱いました。

震災後、原発事故に関する小説やノンフィクションが何冊か出ましたが、どれも「違う」と感じていた。これまでエネルギーや原発を題材に小説を書いてきた自分ならではのアプローチで書きたい、と考えていました。

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