中小の事業継承追う「ハゲタカ」の視線 作家真山仁氏

――作中では、想定外の事故への対応に混乱を極め責任をなすり付け合う政治家や電力会社の経営陣、危機管理体制の欠如、電力行政をめぐる政官財の癒着ぶりなどが臨場感たっぷりに描かれています。関係者への取材は難航したのではないですか?

それが逆で、ほとんど断られませんでした。関係者には親しい人が何人もいて、「彼らは実は書いてほしいのではないか」と思っていましたが、やはりそうだった。電力会社、官公庁、政府、金融など各界の人が協力してくれました。

小説の取材であることも大きかったのでしょう。当時起きていたことをご存知の方々から生々しい話も聞きましたが、それをそのまま書くわけではもちろんありません。たくさんの証言の中から、起きたとされていることを超える「真実」を、想像力を使って探り続け、物語として構成する。ハゲタカはずっとそういう形で、読者に新しい視点やもう一つの選択肢を提示してきました。政治性のあるテーマで2年半の連載を書き続けるのはしんどかったですが、やってよかった。小説の面白さの中に社会的な問題を織り込んでいくという、私が小説家としてやりたいことがバランスよく実現できたと思います。

――鷲津の次なるターゲットは、どんな会社なのでしょうか。

次はフランスの会社を買おうと考えていました。日本人が憧れているけれど一番知らない、価値観が異なる欧州の国はフランスです。彼らとけんかすると日本は絶対勝てない。そこで鷲津がどう戦っていくのかを書きたいと。

でもその構想中に、日産自動車とルノーの件が起きてしまった。想定していた企業はルノーではないのですが、もしかしたらフランスはやめて別のことを書くかもしれません。まねしたといわれるのが嫌なので(笑)。

――日本経済が「失われた30年」となった理由をどう考えますか?

バブル崩壊で日本経済が焼け野原のようになった時、スクラップ&ビルドで新しい産業をつくり出そうとせず、何とか今のまま生き永らえよう、元に戻そうとしたからだと思います。新産業の創出が日本経済の一番の命題と位置付けられたことが、平成の30年間で一度もありませんでした。

――新しい時代に同じ轍を踏まないために必要なことは。

日本が「何とか生きてきた」時代を終わらせ、新しい価値を生み出すフロンティアにしていくことです。世代交代を進め、社会の宝である若い人たちが伸び伸び力を発揮できる場をつくることが、昭和・平成を生きてきた我々の役割ではないでしょうか。

日本にはまだまだ国力があるし、優秀な人たちがいてくれています。平成の日本経済は、いわば昭和のツケを払うことで終わってしまったネガティブな30年でしたが、令和は、可能性に満ちたポジティブな時代であってほしいと願っています。

まやま・じん
1962年大阪府生まれ。新聞記者、フリーライターを経て2004年、企業買収の世界を鮮烈に描いた『ハゲタカ』でデビュー。同作と『ハゲタカ2』(『バイアウト』改題)が07年にNHKでドラマ化され注目を集めた。その後も『レッドゾーン』『グリード』『ハーディ』などのシリーズ作品を発表。18年8月には東日本大震災と原発事故を題材にした『シンドローム』を刊行。日本社会の様々な問題に切り込むエンタメ経済小説として人気を博す。19年4月からテレビ東京系列で、スピンオフ作品『ハゲタカ4.5/スパイラル』が連続ドラマ化。

撮影/川田雅宏 取材・文/佐藤珠希

[日経マネー2019年6月号の記事を再構成]

ハゲタカ4・5 スパイラル (講談社文庫)

著者 : 真山 仁
出版 : 講談社
価格 : 842円 (税込み)

シンドローム(上)

著者 : 真山 仁
出版 : 講談社
価格 : 1,998円 (税込み)