あるべき姿を
小説の力で問い続ける
――巨大企業の買収を次々と仕掛ける鷲津政彦が主人公の『ハゲタカ』シリーズのスピンオフ作品『スパイラル』がテレビ東京系列でドラマ化されました。主人公は企業再生家の芝野健夫。舞台は小さな町工場。『ハゲタカ』の王道とは大きく異なる本作の映像化を、原作者としてどう受け止めましたか?
テレビ東京では別の作品が2度ドラマ化されていたのですが、ハゲタカシリーズの映像化は初めてです。スピンオフからやるのか、と驚きました。
巨大企業の買収だけを選んでいる訳ではないのですが、鷲津が扱う案件がどんどん大きくならざるを得ず、読者から遠ざかっていくことが気になっていました。
『スパイラル』は、小さな町工場を舞台に、芝野が汗をかきながら外資が仕掛けてくるM&A(合併・買収)工作に立ち向かうという、私にとっては最初で最後の「浪花節小説」です。ハゲタカとは全然違うようでいて、実は同じ土台に立つ作品を多くの人に見てもらえるのは、とてもありがたいことだと思います。
――上質かつ高いエンタメ性を持ったストーリーで社会問題に深く切り込む真山さんの作品は度々映像化されています。その醍醐味はどこにありますか。
小説は文字だけの世界なので、読んでいる人によって頭の中で思い描かれる風景や、登場人物の顔は違います。それが映像では、誰かが演じてくれることによって一つになる。とても新鮮な体験です。加えて1作に2~3回は、「こんなふうに伝わるのか」と原作者の私が驚くシーンがあるのです。
あるドラマの収録現場で、俳優の情感がこもったセリフを聞いて「いいこと言うなぁ」と感動していたら、「原作通りのセリフですよ」と指摘されて恥ずかしかったこともあります(笑)。
自分が書いた会話でも、生の人間が話すと響き方が全然違う。拙い情景描写でも、リアルな空間となって眼前に現れる。その驚きが本当に楽しいですね。
――『スパイラル』では、天才的な発明家でもあった経営者の死により経営危機に直面する小さな金型工場の再生が描かれます。日本の中小企業の後継者不足は深刻で、2025年までに127万社が廃業するリスクがあると中小企業庁は試算しています。執筆にはこうした状況への危機意識があったのでしょうか。
中小企業の未来について考えたいと思い、もともと『グリード』を連載中に書いていたものの、うまくいかなかった。その後、現状を調べ、取材を重ねて改めて思ったのは、中小企業の未来にとっては「守る勇気」より「捨てる勇気」が大切だということ。生き残るために何を捨てられるかを考えることが重要です。
さらに前提として、その企業が「生き残る」というのはどのような状態を指すかを定義付けなければなりません。社名や組織を遺すことなのか、つくっているモノやシステムを遺すのか、技術を遺すのか、あるいはファミリービジネスとしての家業を遺すことなのか。それを定義できて初めて、するべきこと、捨てるべきことが見えてくるのだと実感しました。