今回のテーマ「塩蔵食品」とは、字面の通り塩で漬けて保存できるようにした食品のことである。減塩が注目される昨今、「塩蔵食品」と聞くと塩分の取りすぎを思い浮かべる人もいるかもしれない。だが、塩蔵食品は私たちの食文化や歴史とは切っても切れないものなのである。
塩漬けで食品を保存するようになったのはいつからか。日本では正式に文献で確認できるのは、730年ごろ(天平年間)の木簡に野菜の塩漬けが登場している。しかし、縄文時代には塩づくりが行われており、すでに塩蔵食品が作られていたのではないかと推察できる。
食品を保存する手段として冷蔵庫・冷凍庫がある。だが、電気の力で冷蔵するタイプの冷蔵庫がほぼ全世帯に普及したと言えるのは1975年前後だそうで、それまでは食品を保存するために塩蔵することが広く選ばれてきたのである。
さて、なぜ塩で漬けると保存が効くようになるのか。塩そのものに殺菌作用があるから、と思っている人が多いようだが、それは誤解だ。ポイントは「水分」だ。
食品を塩に漬けると、塩の浸透脱水作用で食品の中の水分が吸い出される。食品を腐敗させる微生物が繁殖するために必要な水分量がなくなるため、微生物の働きを抑制し、結果として腐敗を防止できるのだ。もう1つ、使う塩の量(濃度)を調整することで、有害な微生物の活動を抑制しながら有益な微生物だけを活動できる状態を作りだせる。これで、食品を「腐敗」ではなく「発酵」に導くこともできる。
冷蔵庫が普及し、冷蔵技術も物流も発展した今となっては、新たな塩蔵食品が生み出されることはほとんどなさそうだ。しかし、昔ながらの塩蔵食品は今も消えることなく、日本各地に存在している。