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片腕で900mの岩壁に挑む 女性クライマーの意志

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

左腕に先天的な障害をもちながら、クライミングに挑む女性がいる。米国バーモント州の大学を卒業したモーリーン・ベック氏だ。彼女がクライミングを趣味で始めたのは2009年のこと。アイスクライミングがきっかけだった。それから10年。彼女の足跡を写真とともに追ってみたい。

◇  ◇  ◇

「こんにちは。私は生まれつき左腕の肘から先がないんだけど、トランゴ社のアイスツールの端を切り落としてネジをつけ、義手にはめ込んでみました。これで登れるかしら」。ベック氏がクライミングを始めるときに、あるクライミングサイトに投稿した内容だ。

トランゴ社はクライミング用品メーカーだ。創業者のマルコム・デイリー氏は、彼女の投稿を読んで「何か起きても、トランゴを訴えなければ大丈夫ですよ」と返信した。そのデイリー氏自身、右足の膝より先がないクライマーだ。そしてデイリー氏は、米コロラド州で開催されるアイスクライミングイベント「ギンプス・オン・アイス」に、ベック氏を招待した。障害者のためのクライミング振興団体「パラドックス・スポーツ」が立ち上げたイベントで、この年が第2回目の開催だった。

それまで、ベック氏は他の身体障害者と一緒にアウトドアスポーツをやったことがなかった。メーン州の国立公園に近い小さな町で、アウトドアが好きな家族に囲まれて育った。弟が3人いるが、両親はベック氏だけを特別扱いすることはなかった。ベック氏自身も、左の手がないなりに創意工夫を凝らし、色々なことに挑戦した。ガムテープでパドルを義手に巻き付けてカヌーを漕いだり、体育の時間に習うスポーツは何でもやりたいと主張した。

野球をやったときは、グローブを使わず片方の手だけでボールをキャッチし、投げ返した。中学校では、サッカー部の入部テストでゴールキーパーを希望した。コーチやキャンプのカウンセラー、体育教師に「今回は座って見学したほうがいいだろう」と言われれば、決まって「私にできないと思ってるんですか? 見てから言ってください」と言い返した。

そんなベック氏が、ギンプス・オン・アイスのためにコロラド州に訪れ、それまでと全く違う世界を体感した。そこには、高さ30メートルの氷の壁に挑む十数人の障害者がいた。四肢の一部や歩行機能を失った人、視覚に障害をもつ人がいた。できない言い訳をする人は、一人もいない。「みんな本物のアスリートでした。全力で壁を登ります。そして、夜になれば、やはり全力でお酒を飲むという具合です(笑)。最初から最後までお祭り騒ぎの週末でした。自分と同じだ、と思いましたね」

ベック氏は、クライミングの世界に起ころうとしていた変化を目の当たりにしていた。自転車やスキーと同じように、身体に障害がある人もクライミングを習得できるし、それを新たな次元へ引き上げることも可能だ、という考えが生まれようとしていたのだ。人生で初めて、ほかの身体障害者とつながりを持ちたいと願ったという。

それ以来、ベック氏は、毎年ギンプス・オン・アイスに参加するようになった。2012年、コロラド州ボルダーへ引っ越したベック氏は、振興団体のパラドックス・スポーツに問い合わせ、地元の身体障害者によるクライミングコミュニティに参加した。そして、仲間とともに定期的にクライミングに通うようになった。

充実した日々だった。2013年4月、コロラド州ベイルで毎年開催されているゴープロ・マウンテン・ゲームズが、その年初めて障害者クライミング部門を加えることになった。フロリダ州に住むパラクライマー(身体障害者クライマー)のロニー・ディクソン氏の呼びかけで、パラドックスのメンバーも参加することになった。ベック氏も、純粋な興味というよりはむしろ仲間との結束を強めるために参加を決めた。それに、ベイルのコンドミニアムにみんなで泊まるのも楽しそうだった。しかし実際に参加してみると、若い頃の情熱がよみがえってきた。「メダルは取れませんでした。それがちょっと悔しかったんです」

翌年、アトランタで初めて障害者クライミングの全米大会が開かれた。ベック氏は、女性の上肢障害の部門で唯一の参加者だったため、ただ登っただけで優勝した。理想的な勝ち方ではなかったが、そのおかげでスペインのマドリードで開催される国際スポーツクライミング連盟(IFSC)パラクライミング世界選手権大会への出場権を手に入れ、気分は高揚した。ベック氏にとって初めての海外旅行だった。その世界大会で米国人女性として初めて優勝したが、彼女にとっては何よりも、自分と同じように片腕だけでクライミングに挑戦する女性たちと出会えたことが、貴重な体験となった。

その後も、ベック氏はリード(ロープ)種目とボルダリング種目で6度の全米入賞を果たしている。2016年には、フランスでの世界大会で再び優勝(IFSCのパラクライミング世界選手権は2年ごとに開催される)。2018年のオーストリア世界大会では3位に入賞した。「優勝は逃したけれど、素晴らしい試合でした。私の部門では参加者数が過去最高を記録して、これまでよりもずっと強くなっていました」

2020年のIFSCパラクライミング世界選手権は、オリンピックの年にあたるため2019年8月に繰り上げて開催される。ベック氏は、他の目的に集中するため、選手権への参加は、この大会が最後になるだろうと話している。つい最近、ベック氏は、米国の競技クライミングを統括する米国クライミング協会のパラクライミング委員長に就任している。

パラドックス・スポーツのインストラクターとしても活動し、スポーツジムでの障害者アスリートを受け入れやすい環境づくりを目指し、全米でワークショップを開催している。「ある日突然、障害者がクライミングジムへやってきたとき、受付の人が『この人本気?』という目で見るようなことをなくしたいと思います。普通でないことを普通にする。それが当たり前になってしまえば、ちっとも大変なことではなくなるでしょう」。過去1年間で、ベック氏はワークショップを6回開催したが、ニーズはまだまだあると語る。パラドックス全体としては、約100回のワークショップを開いている。

彼女は、障害者クライマーがアウトドアでできると考えられている限界を広げていきたいとも願う。これまで挑戦したルートで最も困難だったのは、難易度を評価するヨセミテ・デシマル・システムで5.12aのグレードがつけられている。障害の有無に関わらず、ほとんどの人にアクセスが困難なレベルだ。上肢に障害を持つ女性でこのグレードを達成したのは、ベック氏が初めてだ。その挑戦を記録したドキュメンタリー映画も制作された。

現在は、そのさらに上を行く5.12cのグレードに挑戦しようとしている。ボルダーにほど近い渓谷にある、アーチエンジェルと呼ばれる高さ30メートルに及ぶ岩壁だ。「著名なロッククライマーのアレックス・ホノルド氏が勧めてくれたんです。『つかむところがないから、片手がなくてもそれほど不利ではない』と言われました」

ロッククライミングだけでは飽き足らず、2018年8月には初めて山でのクライミングにも挑戦した。障害者クライマーのジム・ユーイング氏と一緒に、カナダのノースウエスト準州にある標高2500メートル級のロータス・フラワー・タワーを登った。2019年秋には、まだ訪れたことのないヨセミテ国立公園で、高さ900メートルもの米国最大の岩壁に挑戦する計画を立てている。障害者クライマーにとって「本当の限界がどこにあるのかわかりません。まだ自分でもそれを見つけたとは思っていません」と語った。

次ページでも、岸壁を登るベック氏の姿を紹介しよう。

(文 JAYME MOYE、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年3月10日付記事を再構成]

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