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2020年から見える未来

障害者も楽しめる博物館へ 展示情報もバリアフリーに

2019/6/28 日本経済新聞 夕刊

手話ガイドを目指す学生にポイントを説明する筑波技術大の生田目美紀教授(左)

手話を使ったり触れられる展示物を増やしたりして、聴覚や視覚の障害者が科学系の博物館を楽しめるようにする取り組みが広がっている。スロープ設置などで物理的に利用しやすい環境を整えるだけでなく、「情報のバリアフリー化」を進める試みだ。関係者は「科学を知る喜びを全ての人が感じられる社会にしたい」と話す。

聴覚や視覚に障害がある学生が在籍する筑波技術大(茨城県つくば市)の生田目美紀教授(情報デザイン)は、博物館に手話ガイドを派遣するプロジェクトを進めている。

まずは3人の聴覚障害者を手話による解説ができるように育成し、要望のあった博物館に派遣する計画だ。クラウドファンディングで賛同を呼び掛けたところ、寄付額は目標とする115万円に到達した。

生田目教授は「手話の科学専門用語はものや現象の特徴を見て分かるように表すところに奥深さがある」と話す。

例えば進化の過程で恐竜と鳥の分岐点に位置する「始祖鳥」を説明する場合、羽のように手を上下させ、指で3本のかぎ爪を示すなどする。「爬虫(はちゅう)類」「鳥類」などと書いたボードも同時に使い、聴覚障害者の理解を助ける。魚のマンボウの解説では、3Dプリンターで作った実物大の模型を使って泳ぎを再現する。耳が不自由な人だけでなく、健常者の理解も助ける。

同大学2年の大石周さん(19)は幼少時から聴覚障害があり、学校の遠足などで水族館や動物園に行っても展示を眺めるだけだった。母親が博物館で音声ガイドの内容を手話で訳してくれたとき「こんなに面白い説明を知るチャンスを逃していたのか」と驚いた。「手話ガイドがいればもっと深く理解して楽しめる」とガイドへの応募に関心を寄せる。

視覚障害者に配慮した取り組みも広がる。箕面公園昆虫館(大阪府箕面市)では案内図に点字を使うほか、トンボやハチなど13種類の昆虫の顔面のつくりを銅板に打ち出し、目が不自由な人も触れて形を想像できる展示を常設している。

ミュージアムパーク茨城県自然博物館(同県坂東市)では本物の隕石(いんせき)に触れられるほか、カエルや鳥の鳴き声を聞くこともできる。年1回の特別展「ハートフルミュージアム」では、触れる動物の標本や植物の匂いを嗅ぐ仕掛けの種類を増やす。担当者は「障害者だけでなく全ての来場者が楽しめるので、毎回とても好評を得ている」と話す。

生田目教授は「科学を知りワクワクする感動を全ての人に感じてもらうとともに、より進んだバリアフリー社会を実現するため理解を広げたい」と意気込む。

■障害者への配慮、整備なお途上

筑波技術大の生田目美紀教授が2014~15年に全国の博物館や動植物園など173施設を対象に行った調査では、展示物について視覚障害者向けに「特に配慮していない」と答えた施設が43%だった。聴覚障害者向けは56%が同様に回答した。

16年に施行された「障害者差別解消法」は障害を理由とした不当な差別を禁じ、過度な負担のない範囲で設備を整えてサービスを提供する「合理的配慮」を国と自治体などに義務付けた。

施行後にスロープ設置などは進んだが、生田目教授は「情報を分かりやすく伝える工夫はまだ整備されていない」と話す。現時点で手話ガイドを配置している博物館はほとんどないという。関東のある水族館の担当者は「独自に手話ガイドを雇うには財源の負担が大きく難しい」と漏らす。

[日本経済新聞夕刊2019年6月7日付]

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