4月に定年を迎えたフィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史さんは、週3日はフィデリティでの仕事を続けつつ、新しく個人の仕事も始めました。これまでの「お金で考える人生100年の計」に続き、今回から「野尻さんの定年1年生」を連載します。お金の専門家としての視点も交えながら、定年体験をフランクにつづっていただきます。
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60歳定年。フィデリティ退職・投資教育研究所で行っていたアンケート調査では当然のことのように前提としていましたが、いざ自分がその立場になるとなかなか客観的ではいられませんでした。
私の誕生日は1959年4月ですので、4月末で定年を迎え、従来の雇用契約は一旦解消されて、5月から1年契約の雇用関係がスタートしました。
しかし今は60歳定年も悪くないと思っています。60歳で定年でも、その先うまくすれば10年以上働けます。その後の人生設計を強制的に考えられるチャンスを得たと考えればポジティブです。もし定年が65歳なら、もっと弱気になったと思います。その意味で、東京大学の柳川範之教授が提唱された40歳定年は積極的に評価できます。
この連載では定年を迎えた私が、どんなことを考えたのか、何をしようとして、どんなことをしたのか。そして何を失敗して、何に喜んでいるのかを書き連ねながら、皆さんが定年を迎える心積もりの参考になればと考えています。
「ロクヨン人生」を始める
定年で仕事を辞めてのんびりする、ということは全く考えていませんでした。「ともかくまだ働こう」というのが前提にあって、どう働くかが最初の課題になりました。
まず頭に浮かんだのは、生活費をカバーするという至極単純なことです。ただ「今の生活費」をカバーするだけではなく、「比較的長い期間の生活費」をカバーしなければならないと思っています。

そこで最初に頭をよぎったのが、以前行ったアンケート調査。「定年後同じ会社で再雇用される人は多いが、65歳まで考えると他の会社で再雇用される人の方が長く働いている」という事実でした。
どうやって違う会社で仕事をするのか。実はそれほど簡単ではありません。転職の誘いも受けましたが、今までやってきたことを簡単には捨てきれませんでした。これが同じ会社で再雇用が多い理由なのかもしれません。何せ知っている人が多いのは楽ですから。