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転ばぬ先の不動産学

もめがちな賃貸の原状回復 借り主の負担は限られる 不動産コンサルタント 田中歩

2019/6/12

一方、飼育しているペットによる柱などの傷や引っ越し作業で生じた引っかき傷、エアコンなどから水漏れし、その後放置したために生じた壁や床の腐食などは、借り主の故意や過失、通常の使用方法に反する使い方など、借り主が責任を負わねばならない理由による住宅の損耗などとされ、借り主負担と考えられます。

■入居時の経過年数を考慮

ところで、借り主の過失で壁紙の一部分をひどく汚してしまった場合、部屋全体の壁紙の貼り替えを借り主がすべて負担しなければならないのでしょうか。

ガイドラインによると、この場合、部屋全体の壁紙の貼り替え費用の全額を借り主が負担するのは、原状回復以上の利益を貸主が得ることになり、妥当ではないとし、汚れた箇所を含む一面分の壁紙の貼り替えについて借り主が負担するのが妥当としています。

また、新築物件に入居した場合と築15年の物件に入居した場合とでは、入居時の経年変化と通常損耗の度合いが異なるはずです。仮に、5年後に退去した場合、前者は築5年程度の、後者は築20年程度の経年変化と通常損耗を前提として、借り主が負担すべき原状回復について考えることになります。

■「何でもあり」ではない特約条項

貸主が賃貸借契約に特約を設けることは契約自由の原則から認められます。このため、ガイドラインで規定される原状回復義務を超える義務を借り主に負わせることはできます。しかし、次の要件を満たしていなければ効力を争われる可能性があるとされています。

・特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由がある
・借り主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕などの義務を負うことについて認識している
・借り主が特約による義務負担の意思表示をしている

■ガイドラインに強制力はないが…

原状回復の内容や方法などについては、最終的には契約内容や物件の使用状況などよって、個別に判断、決定されるべきものです。このため、国交省のガイドラインには強制力はなく、原状回復のための判断材料として提示されているにすぎません。

ガイドラインでは、賃貸借の契約をしたときに建物の損耗の箇所や状況をリスト化して書面で整理し、原状回復のルールについて取り決めることが大事だとしています。しかし、そのようなケースは極めて少ないのが実情です。

もし読者の皆さんが、借家に住んでいたり、アパートのオーナーだったりしたら契約書を確認してみてください。おそらく、建物の状態をチェックしたリストや原状回復のルールが定められた書面が見当たらない人のほうが多いのではないでしょうか。

このように、原状回復に関するトラブルは理解が乏しいことが原因となることも多いのです。つまらないトラブルが発生しないよう、自分事として借り主も貸主もガイドラインを一読しておくとよいと思います。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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