2019/6/26

オシゴト図鑑

日本代表ヘッドコーチ代行を務めた「アジアラグビーチャンピオンシップ2016」合宿にて=ほぼ日刊イトイ新聞提供

私は現役時代からカリスマ性ゼロで、強いリーダーシップの対極にあるようなタイプ。実際、監督就任初日に、選手から「本当にオーラないな……」とつぶやかれたくらいです(笑)。ならば、この「日本一オーラのない監督」という称号を逆手に取り、選手を主役にして彼らの力を引き出すコミュニケーションに徹しました。「俺は監督の器じゃない。君たちが頑張らないと勝てない。どうしたら勝てるか、一緒に考えてほしい」と言い続けました。結果、全国連覇を達成できました。

この成功体験は大きかったわけですが、そこに至るまでは試行錯誤でしたし、私はたまたま自分を客観視することが得意で、自分なりのスタイルを見つけられたからうまくいった。ところが、周りを見渡すと「コーチとはこうあるべきだ」という既成概念にとらわれていたり、選手とのコミュニケーションに悩んでいたりする指導者が多いと気づきました。

一方で、日本に滞在している外国人コーチに助っ人で入ってもらうと、彼らがとても自信をもって選手と向き合っている。どうやら海外には「コーチのコーチ」という役割があるらしいと知り、日本でもつくるべきだと考えました。ですから、協会から「コーチのコミュニティをつくりたい。初代のコーチングディレクターになってくれないか」と話が来た時は、二つ返事で快諾しました。

そのうち、サッカーや陸上といった他種目からも呼ばれるようになり、昨年、競技の枠を超えた一般社団法人「スポーツコーチングJapan」を立ち上げました。2020年のオリンピックも見据えて、世界とのギャップを埋めなきゃいけないという使命感もありますね。

ビジネスとスポーツ、複数の分野で活動するのは大変ではないですか?混乱することはないのでしょうか?

たしかに忙しいほうだとは思います。研修やトレーニングに立ち会う件数を数えると、年間365件はゆうに超えていますから(笑)。ただし、混乱はしないです。私が伝えていることはいつも同じで、「一方的に教えるのではない。メンバーと共に学ぶリーダーになろう」。

初めて「コーチのコーチ」の役割を担った時、「全国のコーチに配る指導マニュアルを作ってほしい」と注文されたのですが、悩んだ末に断りました。今はスポーツもビジネスも「正解がない時代」と言われます。混沌とした環境の中では、カリスマ的なリーダーが引っ張る組織より、皆で知恵を出し合ってトライ&エラーを繰り返せる組織のほうがタフに生き残れると私は思っています。

では、リーダーに何を学んでもらうのか?欠かせないのは「自分の弱みをさらけ出す」練習です。リーダーが弱みを見せると、メンバーも安心して弱みをさらけ出せますし、それが本質的な組織の課題解決につながっていきます。