――内山教授「ストレスで疲れることが続いても、私たちには回復する機能があります。『休養』です。私たちは1日の4分の1から3分の1は眠って過ごします。睡眠は休養のうちの『休』の部分として重要です。楽しみを積極的に得る、気分転換をするというのが休養のうちの『養』の部分。
先ほど話題になったように『心の健康』とは、ストレスが全くないという現実離れした状態ではなく、『ストレスと休養、負荷と回復のバランスがとれた状態』なのではないかと思います」
疲れて休みたくなるのは心身の「安全弁」
心の健康とは「常に元気で走り続けること」だと思っていたが、そうではないということだろうか?
――内山教授「自分で疲労に気付くことが大切。常に100%元気でいるのは、長い目で見ると危険です。心身が疲弊してしまいます。患者さんや知人など、社会で頑張ってきた人たちと話をしていると、『世の中には頑張り屋、優秀な人がたくさんいるけれども、最後は体が丈夫でなくちゃ』という声が目立ちます。つまり、『無理をして頑張り続けたために途中で体を壊してしまい、第一線から遠のいていく人が多かった』というのです。困難やストレスに常に全力で立ち向かい走り続けていくことは、安全弁がうまく働いていないとも考えられるかもしれません」
「安全弁」というのは?
――内山教授「『疲労を感じる』ということは、心身を守る大切な『安全弁』なのだと思います。疲れると体を休めたくなるし、気持ちの面でも仕事を先延ばしにしたくなる。これが安全弁。疲労がなかったら、本当に体が壊れるまで気づきませんから」
安全弁である疲労を感じて休養すれば、回復できる。ストレスと休養による回復のバランスを保てる。これを繰り返すことが、心の健康につながるのだという。思えば、私は特にストレスの多い仕事が山積みになると、家でグッタリとしてしまうことが多い。
――内山教授「私の休日も同じです。自宅で勉強ができないのは机や椅子のせいかと思って最近買い替えてみましたが、ダメですね。仕事がたまっているのに、家に帰るとどうでもよくなって、テレビを見るなどダラダラ過ごしてしまいます。パーッとどこかに行ってリフレッシュできればと思うのですが……。そういう意味で休養の『養』の部分はうまくとれていませんが、『休』の部分がとれているからうまくやっていられるのだろうと自分を慰めています」
実は私も、「やらなければいけない」と思ってはいても、ついつい先延ばしにして怠けてしまうことが多い。そんな意志の弱い自分を責めることもある。

――内山教授「意志が弱いのは、必ずしも悪いことばかりではないと思います。疲れているのに意志を強く持って何でもかんでも全力で取り組んでしまうと、結果的に健康を害すことになりかねません。『やらなきゃいけない』と思いながらも休んでしまう意志の弱さは、『疲れている時に働く体の安全弁』です」
怠け者の自分を肯定してもらえると、前向きな勇気をもらえる。
――内山教授「最終的な目標は『心が健康になる』ことです。ストレスについて考える時には、ストレスだけに注目してこれをなくすのではなく、『心の健康』という視点で『ストレスと休養とのバランスがとれているか』を考えてほしいです」
冒頭でも触れた通り、この連載のタイトルは「ストレス解消のルール」。だが、ストレスの正体が「生きがい」につながる人生のハードルであったり、ストレスによる疲労が心身を壊さないための「安全弁」であるなら、本当に目指すべきは「ストレス自体をなくすこと」ではなく、「ストレスを認識して、それとうまく付き合っていくこと」だろう。ぜひ、そう読み取っていただき、ストレスと休養とのバランスを見直してほしい。次回は休養のコツについて、さらに内山教授にお話を伺っていく。

