VRで見る歌舞伎 津田大介「両方の世界広げるかも」

ただVR歌舞伎を本格的に展開していくなら、歌舞伎の演目自体をVR用に作り替えることも検討したほうがいいのではないか。僕がVRで見たのは3分間のダイジェストだったが、実際の歌舞伎は一幕で2時間近くに及ぶ演目もある。それだけの時間、ヘッドセットをつけ続けるのはかなりの負担になるだろう。

松竹では「VR酔い」などの健康面の問題について大学と協力して検証に取り組んでいるそうだが、それと並行して、VR歌舞伎は30分程度にまとめて実際の舞台では再現できない派手な演出を見せるなどといったアプローチを試してみてもいいのではないか。

漫画「ワンピース」やボーカロイド「初音ミク」とコラボレーションした演目を披露するなど、歌舞伎界は伝統を守りつつ新しいチャレンジを続けている印象がある。そういった取り組みにVRを取り入れることで、初心者の背中をさらに押すことにもつながると思う。

2019年4月に開催された「ニコニコ超会議2019」では、初音ミクとコラボした「超歌舞伎」の公演を開催した

親和性の高いVRと歌舞伎

今回、VR歌舞伎を体験して、改めてVRと歌舞伎は親和性が高いと思った。

歌舞伎には花道という舞台装置があり、役者の登場に合わせて振り返るなど視線の移動が発生する。映画などの視線が固定されている作品よりVRを使う意味が大きいコンテンツといえる。それは「VRとはどんなものか」を理解・体験する入門編としても適していることも意味する。

歌舞伎とVRを組み合わせることで、より多くの人が歌舞伎を楽しめるようになるだけでなく、VR活用の可能性も広がっていくと思うのだ。

津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に「情報の呼吸法」(朝日出版社)、「Twitter社会論」(洋泉社新書)、「未来型サバイバル音楽論」(中公新書ラクレ)など。近著に「情報戦争を生き抜く」(朝日新書)。芸術監督を務める「あいちトリエンナーレ2019」が8月1日から開催される。

(編集協力 藤原龍矢=アバンギャルド、写真 渡辺慎一郎=スタジオキャスパー)