VRで見る歌舞伎 津田大介「両方の世界広げるかも」

歌舞伎座で見た歌舞伎とVR歌舞伎を比べると、劇場の雰囲気や音の響きなどは、当然ながら迫力が違う。ただ小さな永楽館に比べると歌舞伎座の収容人数は「1808席+幕見席」とかなり大きい。僕が見たのは2階席で、舞台や花道とは距離があった。全体を見渡して歌舞伎の華やかな雰囲気を感じたり、舞台全体の動きを追うにはある程度離れていたほうが見やすい。しかし、VRで体験した細かなディテールは見えない。2階席から双眼鏡で舞台を見ていた人がいたが、質感や迫力という点はVR映像のほうが満足度は高いのではないかと考えたほどだ。

芸術監督を務める「あいちトリエンナーレ2019」(8月1日~10月14日)でVRを活用した展示ができないかと、ここ数年、さまざまなVRコンテンツを体験してきた。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「CARNE Y ARENA」に代表されるような、完成度の高い作品もあるが、正直、VRで撮影しただけという質の低いものも少なくない。そんな中で、VR歌舞伎はその世界に没入できる、魅力的な体験に仕上がっていた。

VR用の演目がほしい

VR歌舞伎の可能性について、井上社長は「実際に歌舞伎を鑑賞するのが難しい人に歌舞伎を体験してもらいたい」と話す。「もともと歌舞伎は好きだったけれど、何らかの理由で劇場へ足を運べなくなった人は多くいます。例えば、高齢で老人ホームへ入った人でも、VRならその場で観賞できます。今は、高齢者が集まる施設へ出向いて、VR歌舞伎の観賞会などを提案しています」

また「新しい歌舞伎ファンを獲得する役割も期待している」という。確かにその路線も有効だろう。未体験の人間からすると、歌舞伎は気軽に行きづらいという雰囲気があるのではないか。まずVRで体験できれば、僕のように劇場でも鑑賞してみたいと興味を持つ人も増えるに違いない。

「歌舞伎の鑑賞が難しくなった人、まだ見たことがない人にVR歌舞伎を体験してほしい」と井上さん

インバウンドが盛り上がっている今なら、空港や観光地などに設置する手もある。VRなら大がかりな設備を作らなくてもいい。ヘッドセットだけ用意して地方巡業や海外公演を行うこともできるかもしれない。

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