エシカルジュエリーの伝道者、白木夏子氏の原点

日経doors

2019/6/12

マリエ:その原体験の話、聞きたいです。大学では何を専攻されていたんですか?

白木:国際開発といって、発展途上国の社会情勢を学びました。貧困とか、環境問題とか。イギリスは移民も多いし、アフリカや中東からの留学生も多かったので、国際問題が身近に感じられてよかったです。

マリエ:中でも、特に関心を持ったのは?

白木:途上国の開発では、ありとあらゆることに問題があって。教育、ジェンダーギャップ、環境汚染、どこを見ても課題だらけでした。だから、何をやっても貢献できるんだなと思っていたとき、インドの鉱山で働く最貧困層の人々のことを知ったんです。

マリエ:「最」貧困層というと、どんな生活なんですかね……。

白木:食生活でいうと、1日1食食べられるかどうか。彼らは一生働いても返せないような借金を背負わされていて、働いても働いても貧困から抜け出せない仕組みになっているんですよね。

マリエ:映画の『ブラッド・ダイヤモンド』を思い出しました。人生まるごと搾取されているみたいな……。

白木:私も『ブラッド・ダイヤモンド』から影響を受けました。私は小さい頃からファッションとか芸術の業界にすごく憧れがあって、趣味で自分でもジュエリーを作っていたので、なおさらショックが大きかったんです。こんなにすてきな宝石やジュエリーが、貧困の温床になっていたなんて。

マリエ:大好きなもののせいで苦しんでいる人がいると思うと、辛いですよね。

白木:大学1年生の頃に、先生にこの話をしたら「アウトカースト(カースト制度にも組み込まれない最下層の不可触民と呼ばれる人たち)の現状を見るといいよ」って非政府組織(NGO)を紹介してくれて。そこのインターンとして数カ月間インドの最貧困層の村に行って、鉱山労働者に会ったのが「HASUNA」の始まりです。実際に起業するのはもう少し先なんですけど。

マリエの気付き
学生のとき白木さんがNGOに飛び込んだように、ソーシャルイシュー(社会的課題)に興味を持ったら、まずはコミュニティーに入ってみるのがいいと思います。私も時々「soar」という非営利組織(NPO)の活動に参加しているのですが、コミュニティーに入ることで情報をキャッチアップでき、社会課題を「自分ごと」として考え続けることができるようになります。急に「社会派」になって友達から「どうしちゃったの?」という反応をされても、共通言語を持つ人たちといればそんな突っ込みもノイズになっていきます(笑)。

起業から2カ月で資金が枯渇し、友達から出資してもらう

マリエ:今でこそフェアトレードが注目されるようになったけど、構造を変えるってすごく難しいことだと思うんですよ。「HASUNA」の起業は順調でしたか?

白木:それが全然。大変なことばかりでした。まず、仕入れ先の鉱山を知るのに苦労しましたね。ダイヤモンドとか金とか、当たり前ですけど採れる場所が違うんですね。今は、パキスタンや中米のベリーズや、アフリカのルワンダの人たちと一緒にジュエリーを作っているんですけど、当時は流通経路も不透明だったので、日本のジュエリーの問屋さんに聞いても、原産地は分からないっていうんです。

マリエ:それでも白木さんは諦めない。

白木:諦めなかったです。国連でのインターン経験もあったので、そのときの知り合いに聞いたり、途上国に住んでいる知人に聞いたりしながら、宝石職人さん、研磨職人さん、鉱山を持ってる人など、人づてに一人ひとり知り合っていって何とか形にしました。起業準備中は会社員だったので、時間もなくて。

マリエ:え、最初はパラレルキャリアでやってたんですか!?

白木:そうですそうです、投資ファンドに勤めていました。開発学のことを勉強したので、お金と経営のことをもっと知りたくて。おかげでビジネス感覚が身に付いたので、会社員をやって良かったなと思ってます。

マリエ:投資ファンドに。じゃあ資金面は「任せて!」って感じだったんですか?

白木:実はそうでもなくて、設立からなんと2カ月で資金が枯渇しました。銀行からもそっぽを向かれて。仕方なく、ビジョンを話して友人たちに出資してもらい、1カ月間で600万円ほど集めました。集まった資金を前に「絶対に失敗してはならない……!」と押し潰されそうになっていました。

マリエ:それは想像するだけでしんどいです。それでも白木さんは、使命感が勝つんですね。

白木:「世界が少しでもいいほうに向かう」ってことがすべてのベースにあるんです。それは仕事だったり、スピーチや講演だったり、取材をお受けするかどうかも含めて私の行動指針にあるのかなって思ってて。今でもそうですし、起業当時からそれが私のミッションだったので、道のりがしんどくても私がやらなければ誰がやるのって思ってました。

マリエ:素晴らしいです。でも、いわゆる「社会貢献」にそこまで入魂できるって、どこにモチベーションの源泉があるんですかね。それが「やったほうがいいこと」と分かっていても、行動できるかは別ですよね。

白木:誰かの明日を救うためのビジネスモデルに、何より私がワクワクするんですよね。「世界が少しでもいいほうに」とか言っていると、キレイごとみたいに聞こえちゃうかもしれないけど、シンプルにそういうことがすごく好きなんです。

マリエ:なんかもう、白木さんの存在が地球に優しいです。約10年前に「HASUNA」を立ち上げたときって、まだまだ「エシカル消費」って概念が浸透していなかったと思うんです。思想ある消費をしようっていう潮流も、本当に最近のものですよね。

白木:そうですね、10年前は「エシカルって何?」から説明しないといけませんでした。

マリエ:エシカルが浸透するまで、一つの価値観を発信し続けられるってすごいですよね。

白木:最初は小さな輪だったんですけど、それでも共感してくれる人たちがやればやるほど増えていく感覚はあったんですよ。それはお客様だったり、私と話して同じように起業したという人だったり。動けば動くほど小さな変化が見られるから、やっぱりこれが真実なんだなと。

マリエ:周囲の反応にも支えられてきたんですね。

白木:そうですね、でも実は2年ほど前に「HASUNA」をリブランディングして、今は「エシカル」を全面的に押し出したブランディングはしないようにしているんです。

マリエ:どうしてですか?

白木:エシカルはもはや「当たり前」と捉えたいからです。美しいものを、美しい素材で作って、生産過程も美しくありたい。根底にあるその気持ちは創業時から全く変わっていないのですが、エシカルを大々的に掲げて推進するより、当たり前にエシカルなプロセスを取っているジュエリーブランドの姿勢を示したくて。

マリエ:なるほど、例えば「私はLGBTフレンドリーなアライ(Ally=性的マイノリティーを理解し支援するという立場を明確にしている人々)です!」とわざわざ宣言しなくても、「いや、いろんな性的指向・性自認の人がいて当然でしょ」って空気に変わってきたのに近い感じですね。