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エシカルジュエリーの伝道者、白木夏子氏の原点

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NIKKEI STYLE

日経doors

ジュエリーが貧困問題の温床になっていることにショックを受け、エシカル(倫理的)消費を目指すジュエリーブランド「HASUNA」を2009年に設立して最高経営責任者(CEO)として活躍している白木夏子さん。パキスタン、スリランカ、ベリーズなど世界10カ国の鉱山労働者や職人と共にジュエリーを制作し、日本におけるエシカル消費の普及に貢献している。そんな白木さんの活動を日経doorsで連載を持つライターのニシブマリエ氏が聞いた。

◇  ◇  ◇

白木夏子さんが伝授する「学びのお品書き」
・「世界を少しでもいい方向に」が行動指針
・エシカルをもはや「当たり前」に
・最終的には「自分で決める」
・新しい資本主義の形を模索する

インドのアウトカースト訪問がすべての始まり

ニシブマリエ(以下、マリエ):いろいろなところで白木さんのご活躍を拝見しているのですが、HASUNA以外にもさまざまな活動をされているんですよね?

白木夏子さん(以下、敬称略):そうですね、基本的に全てHASUNAのために動いていますが、昨年は《Re.ing[リング]》という多様化する家族の在り方を考えるプロジェクトを高木新平くんのNEWPEACEと一緒に立ち上げました。あとは、素材の買い付けや次のビジネスの種を探しにイスラエルに行ったり、パキスタンに行ったり……。

マリエ:白木さんは体がたくさんあるか、1日48時間くらいあるんですか?

白木:いやー、私はちょっと多動気味なのかもしれないです。何かに興味を持つとじっとしていられなくて。私のおじいちゃんもよく言えば「多動力がある人」だったので影響されたのかな。

「9.11」は自分の人生を変えた出来事の一つ

マリエ:おじいさまは、何をされていたんですか?

白木:おじいちゃんは薬剤師で、薬局を経営しながら、夜は能の先生をやっていました。

マリエ:の、のう……!

白木:その傍ら催眠術師の資格を取って、催眠術でお客さんのおねしょを治したりも(笑)。戦争経験があったからなのか、旅が好きだったからなのか、英語、ドイツ語、ロシア語、中国語を話すおじいちゃんでした。

マリエ:マルチリンガルなおじいさま、かっこよすぎる。きっとご近所でも、名物おじいちゃんだったんでしょうね。白木さんは昔から世界の出来事に関心が高かったんですか?

白木:そうですね。大学でイギリスに留学したんですけど、それもおじいちゃんからの勧めでした。

マリエ:イギリスにした理由はあるんですか?

白木:いえ、最初はアメリカに留学しようと思っていたんですけど、同時多発テロが起きた2001年9月11日、私はちょうどアメリカの大学を見に行こうと飛行機に乗っていたんです。カナダ上空でテロのことを知り、カナダのウィニペグという街に不時着。そのまま日本に引き返しました。

マリエ:えええ、あのとき飛行機の中にいたんですか……なるほど、それでイギリスに変更されたんですね。

白木:テロ自体も衝撃的でしたし、結果的にイギリスの大学在学中に「エシカル」の原体験に行き着くことになるので、「9.11」は自分の人生を変えた出来事の一つですね。

マリエ:その原体験の話、聞きたいです。大学では何を専攻されていたんですか?

白木:国際開発といって、発展途上国の社会情勢を学びました。貧困とか、環境問題とか。イギリスは移民も多いし、アフリカや中東からの留学生も多かったので、国際問題が身近に感じられてよかったです。

マリエ:中でも、特に関心を持ったのは?

白木:途上国の開発では、ありとあらゆることに問題があって。教育、ジェンダーギャップ、環境汚染、どこを見ても課題だらけでした。だから、何をやっても貢献できるんだなと思っていたとき、インドの鉱山で働く最貧困層の人々のことを知ったんです。

マリエ:「最」貧困層というと、どんな生活なんですかね……。

白木:食生活でいうと、1日1食食べられるかどうか。彼らは一生働いても返せないような借金を背負わされていて、働いても働いても貧困から抜け出せない仕組みになっているんですよね。

マリエ:映画の『ブラッド・ダイヤモンド』を思い出しました。人生まるごと搾取されているみたいな……。

白木:私も『ブラッド・ダイヤモンド』から影響を受けました。私は小さい頃からファッションとか芸術の業界にすごく憧れがあって、趣味で自分でもジュエリーを作っていたので、なおさらショックが大きかったんです。こんなにすてきな宝石やジュエリーが、貧困の温床になっていたなんて。

マリエ:大好きなもののせいで苦しんでいる人がいると思うと、辛いですよね。

白木:大学1年生の頃に、先生にこの話をしたら「アウトカースト(カースト制度にも組み込まれない最下層の不可触民と呼ばれる人たち)の現状を見るといいよ」って非政府組織(NGO)を紹介してくれて。そこのインターンとして数カ月間インドの最貧困層の村に行って、鉱山労働者に会ったのが「HASUNA」の始まりです。実際に起業するのはもう少し先なんですけど。

マリエの気付き
学生のとき白木さんがNGOに飛び込んだように、ソーシャルイシュー(社会的課題)に興味を持ったら、まずはコミュニティーに入ってみるのがいいと思います。私も時々「soar」という非営利組織(NPO)の活動に参加しているのですが、コミュニティーに入ることで情報をキャッチアップでき、社会課題を「自分ごと」として考え続けることができるようになります。急に「社会派」になって友達から「どうしちゃったの?」という反応をされても、共通言語を持つ人たちといればそんな突っ込みもノイズになっていきます(笑)。

起業から2カ月で資金が枯渇し、友達から出資してもらう

マリエ:今でこそフェアトレードが注目されるようになったけど、構造を変えるってすごく難しいことだと思うんですよ。「HASUNA」の起業は順調でしたか?

白木:それが全然。大変なことばかりでした。まず、仕入れ先の鉱山を知るのに苦労しましたね。ダイヤモンドとか金とか、当たり前ですけど採れる場所が違うんですね。今は、パキスタンや中米のベリーズや、アフリカのルワンダの人たちと一緒にジュエリーを作っているんですけど、当時は流通経路も不透明だったので、日本のジュエリーの問屋さんに聞いても、原産地は分からないっていうんです。

マリエ:それでも白木さんは諦めない。

白木:諦めなかったです。国連でのインターン経験もあったので、そのときの知り合いに聞いたり、途上国に住んでいる知人に聞いたりしながら、宝石職人さん、研磨職人さん、鉱山を持ってる人など、人づてに一人ひとり知り合っていって何とか形にしました。起業準備中は会社員だったので、時間もなくて。

マリエ:え、最初はパラレルキャリアでやってたんですか!?

白木:そうですそうです、投資ファンドに勤めていました。開発学のことを勉強したので、お金と経営のことをもっと知りたくて。おかげでビジネス感覚が身に付いたので、会社員をやって良かったなと思ってます。

マリエ:投資ファンドに。じゃあ資金面は「任せて!」って感じだったんですか?

白木:実はそうでもなくて、設立からなんと2カ月で資金が枯渇しました。銀行からもそっぽを向かれて。仕方なく、ビジョンを話して友人たちに出資してもらい、1カ月間で600万円ほど集めました。集まった資金を前に「絶対に失敗してはならない……!」と押し潰されそうになっていました。

マリエ:それは想像するだけでしんどいです。それでも白木さんは、使命感が勝つんですね。

白木:「世界が少しでもいいほうに向かう」ってことがすべてのベースにあるんです。それは仕事だったり、スピーチや講演だったり、取材をお受けするかどうかも含めて私の行動指針にあるのかなって思ってて。今でもそうですし、起業当時からそれが私のミッションだったので、道のりがしんどくても私がやらなければ誰がやるのって思ってました。

マリエ:素晴らしいです。でも、いわゆる「社会貢献」にそこまで入魂できるって、どこにモチベーションの源泉があるんですかね。それが「やったほうがいいこと」と分かっていても、行動できるかは別ですよね。

白木:誰かの明日を救うためのビジネスモデルに、何より私がワクワクするんですよね。「世界が少しでもいいほうに」とか言っていると、キレイごとみたいに聞こえちゃうかもしれないけど、シンプルにそういうことがすごく好きなんです。

マリエ:なんかもう、白木さんの存在が地球に優しいです。約10年前に「HASUNA」を立ち上げたときって、まだまだ「エシカル消費」って概念が浸透していなかったと思うんです。思想ある消費をしようっていう潮流も、本当に最近のものですよね。

白木:そうですね、10年前は「エシカルって何?」から説明しないといけませんでした。

マリエ:エシカルが浸透するまで、一つの価値観を発信し続けられるってすごいですよね。

白木:最初は小さな輪だったんですけど、それでも共感してくれる人たちがやればやるほど増えていく感覚はあったんですよ。それはお客様だったり、私と話して同じように起業したという人だったり。動けば動くほど小さな変化が見られるから、やっぱりこれが真実なんだなと。

マリエ:周囲の反応にも支えられてきたんですね。

白木:そうですね、でも実は2年ほど前に「HASUNA」をリブランディングして、今は「エシカル」を全面的に押し出したブランディングはしないようにしているんです。

マリエ:どうしてですか?

白木:エシカルはもはや「当たり前」と捉えたいからです。美しいものを、美しい素材で作って、生産過程も美しくありたい。根底にあるその気持ちは創業時から全く変わっていないのですが、エシカルを大々的に掲げて推進するより、当たり前にエシカルなプロセスを取っているジュエリーブランドの姿勢を示したくて。

マリエ:なるほど、例えば「私はLGBTフレンドリーなアライ(Ally=性的マイノリティーを理解し支援するという立場を明確にしている人々)です!」とわざわざ宣言しなくても、「いや、いろんな性的指向・性自認の人がいて当然でしょ」って空気に変わってきたのに近い感じですね。

白木:そうそう、そういう感じ。それらを「当たり前」として振る舞えるのも、時代が変わってきた証拠なのでうれしいですよね。

マリエ:そこに至るまでに、白木さんの「在り方」にも多少の変化はあったんですか?

白木:メッセージは変わらないんですけど、立ち回り方は少し変わったかもしれないですね。今は「自分で決める」っていうことを大切にしています。

マリエ:自分で決めない時期もあったんですか?

白木:人生のいろんな局面において、親の意見や友達の意見に左右されることもあったんです。でも、エシカルな事業を立ち上げるとか会社をつくるとかって、自分も家族も友達もしたことがないことなので、最終的には自分の考えを優先することにしています。自分の人生に責任を取れるのは自分だけなので。

「新しい資本主義」を目指して、次の展開を考える

マリエ:「HASUNA」は2019年4月に10周年を迎えたそうですね。これからはどんな展開を考えているのですか?

白木:「世界を少しでも良くしたい」を中心にやはり考えているんですけど、HASUNAのようなエシカルでサステイナブルな会社をたくさんつくったら、世の中が変わるんじゃないかって仮説が自分の中にあり、その実現に向けて動きたいと考えています。HASUNAの作り上げたい世界観やブランドの姿を実現しようとすると、一社で1000億円規模の会社を目指すことよりも、複数の会社で一つの志を追いかけられる事業体なりネットワークを作りあげるほうが良いのではないかと思っています。

マリエ:1000億円規模の会社が1社あるより、10億円規模の会社を100社つくる、みたいな?

白木:そうです。前者だと社長は1人ですけど、後者だと社長は100人。コンパクトでビジョナリーな会社が増えていくといいなと思っています。起業って大変なことも多いけど、未来を自分でつくっている実感が得られるんです。HASUNAからのビジネス面でのサポートを通じて、志のある起業家や、人にも環境にも社会にも配慮したビジネスを応援していきたいと思っています。

マリエ:今って、持続可能な開発目標(SDGs)がファッション誌で特集される時代じゃないですか。私はあれ、けっこうビックリしたんですけど、こういう潮流って想像してましたか?

白木:世界はきっとエシカルなほうに向かうはずとは思っていました。SDGsも(企業の環境や社会への配慮を評価基準とする)ESG投資も、私が思い描いていた理想的な状態なんですよね。お金が正しいことに使われて、正しい方向に流れるのがあるべき姿だと思っていたので。利益や売り上げだけが中心の資本主義ではなく、やはり共生や共感のある「共に生きる」形の新しい資本主義にスイッチすることが今の時代に必要なのでは、と。

マリエ:ちなみに、白木さんがよく海外に行かれているのって、ビジネス以外にも、そういう平衡感覚みたいなものを得るためだったりもするんですか?

白木:それはありますね。1カ所にいると、既存の価値観や今ある枠組みにとらわれてしまうので、動けば動くほど自分の考えが柔軟になっていく。古いものを打ち破って、新しい価値観や枠組みをつくり続けるのが起業家の役割だと思います。定期的に長距離移動をしているのは、そのためでもありますね。

マリエ:めっちゃかっこいいなと思いました。白木さん、ありがとうございました!

ユニバーサルな女性からの学び

・「世界を少しでもいい方向に」が行動指針
とにかく選択肢は多ければ多いほどいいと思っていた時期がありましたが、最近はそうは思わなくなっている自分がいます。なぜなら迷うことに時間が取られるから。けれどもやっぱり、心配性な私は選択肢が多いほうが安心できるような気もして。……なるほど! 行動指針があればいいのか! 私も自分の軸を考えてみることにします。

・エシカルをもはや「当たり前」に
白木さんは事業レベルでおっしゃっていましたが、当たり前にエシカルでサステイナブルなものを選ぶのは、私たちの生活レベルでも実践できることかなと思います。長寿命でエネルギー効率のいいLED電球を選ぶ、フェアトレード商品を買う、シェアリングサービスを活用するなど。ただ、エシカルな製品って現状ではちょっと割高なので、可処分所得に余裕がないと難しいかもしれないなとも思ったり。

・最終的には「自分で決める」
経験豊富な人のアドバイスはついうののみにしたくなります。就活でも「親が喜ぶかどうか」を気にする人は少なくないように思います。でも、それをやるのは自分だから。誰かを立てるとかいう発想は平成に置いていって、自分はどうしたいのかに純粋に向き合いたい。私もそうだし、家族や友人にもそうであってほしいなと思いました。

・新しい資本主義の形を模索する
こないだ海外で洋服や化粧品などを爆買いしたのですが、買い物が大好きだったはずの自分の中にちょっとした「むなしさ」を発見しました。今年も私はまたファッションを消費するのか、と。「たくさん稼いで、いいものを持つ」を繰り返していると、自分自身が消費されていくような感覚に陥ります。それより、クラウドファンディングで友達の挑戦を応援したり、学んだりするためにお金を使ったほうが幸せの総量が増える気がしています。「共に生きる」ことを掲げる白木さんの次の活動も、心から応援したいです

ニシブマリエ
ライター/広報PR。青山学院大学英米文学科を卒業後、大手人材情報会社の営業と広報を経験。「広報もやりたいけど、ライターもやりたい。そもそも何をするかは自分で決めたい」と思い立ちフリーランスに。現在は、企業の広報支援をしながら、HRなどのビジネス領域と、ジェンダーや多様性といった社会的イシューを中心に取材・執筆を行っている。趣味は、海外一人旅と写真と語学。グローバルインタビュアーを目指して、コーチング英会話「TORAIZ」にて英語の特訓中。

(文 ニシブマリエ、写真 飯本貴子)

[日経doors2019年5月7日付の掲載記事を基に再構成]

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