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企業研修にパラスポーツ活用 社内のやり取りも円滑に

2019/6/10 日本経済新聞 朝刊

ブラインドサッカーを体験する、全日空グループの社員と家族ら(東京都港区)

企業などが従業員研修にパラリンピック競技を取り入れる動きがじわりと広がってきた。働く人材が多様化するなか、実体験を通じて障害への理解を深めたり、社内のコミュニケーションを円滑にするポイントを学ばせたりする狙いがある。専門家は「様々な場で多様性教育が広がれば、東京パラリンピックの貴重なレガシーになる」と指摘する。

「もうちょい右!」

4月下旬、東京都港区の全日本空輸の本社オフィスで、家族連れの社員ら約20人がブラインドサッカーを体験した。

目隠しでドリブルしたり、周囲の声を頼りに目標物をめがけてボールを蹴ったり。ブラインドサッカーでは相手のゴール裏からゴールまでの距離や角度などを選手に伝える「コーラー」というガイド役がおり、声がけが競技の重要な要素だ。実際にコーラーもやってみると、目の見えない相手に正確に情報を伝える難しさが分かる。

研修に参加したグループ会社の平野里絵さん(39)は「楽しみながらコミュニケーションの本質を学べた」。普段は営業の部署で事務を担当しており、「今までは相手に『なんとなく伝わっている』で満足していた」という。

全日空は日本ブラインドサッカー協会(東京・新宿)と連携し、2016年から人事研修などに競技体験を導入。これまでにグループを含め1350人以上が参加しており、今回初めて社員の家族にも声をかけた。

同協会によると、企業などに出向く体験型研修の実施先は取り組みを始めた12年度は9件だったが、18年度には66企業・団体の108件に拡大。中小企業も参加しており、講師を務める日本代表強化指定選手の寺西一さん(28)は「多様性への理解を促すだけでなく、互いに声をかけ合うことで社員の結びつきも強まる」と企業側の狙いを語る。

自治体が取り入れる動きも出ている。東京パラリンピックで「ゴールボール」の会場が置かれる千葉市。16年度から競技の体験会を新任課長研修で実施し、17年度から他の職員向けにも始めた。人材育成課の担当者は「開催地としての意識や障害者への理解を促したい。職種関係なく交流する場にもなっている」と手応えを感じている。

筑波大は18年度に始めた社会人向けダイバーシティ講座で、車いすを使ったグループワークなどパラスポーツの要素を取り入れた。昨年10~12月に計5日間開いた講座には通信大手の人事担当者ら約10人が参加。グループに車いすの人や聴覚障害者がいると仮定して、全員が楽しめる競技ルールをその場で考案して実施する「アダプテッド・スポーツ」の試みも行った。

筑波大は主に社会人向けにダイバーシティ関連の修士号を設ける計画を進めており、講座はその準備の一環。学部生向けにも障害者スポーツのボランティアの養成講座を設けてすでに授業に取り入れている。

社会人向けの講座に関わった筑波大の河野禎之助教は「障害者だけでなく女性や外国人など働く人材が多彩になるなか、多様性教育は重要性を増している」と指摘。「社会の中でしっかりと根付かせ、東京パラリンピックのレガシーに育てるべきだ」と話している。

■世界初、2度目の夏季パラリンピック

パラリンピック史上最多の約270万枚のチケットを売り上げ、「最も成功した」と言われるのが2012年のロンドン大会。現地で会場づくりなどに携わった建築家の山嵜一也さん(45)は「多民族国家でもともと多様性への理解があり、先の五輪で英国が躍進したこともパラの盛り上げにつながった」と話す。

大会を機に様々なレガシー(遺産)の取り組みがなされ、教育現場では障害の有無にかかわらず多様な児童生徒が参加できる競技会が学校対抗などの形で幅広く催されるようになった。「スクール・ゲームズ」と呼ばれるこの枠組みには1万6千校以上が登録し、健常・障害児の混合チームで参加する学校もある。

世界で初めて同一都市で2度目の夏季パラリンピックを開く日本は20年大会で何を残せるか。山嵜さんは「大会自体の成功ばかりを意識して一過性で終わるのではなく、教育など息の長い視点に立った取り組みが重要だ」と指摘する。

[日本経済新聞朝刊2019年5月21日付]

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