夜空を彩るオーロラは、人々を魅了する。しかし、2016年に観測された新しいタイプの発光現象「スティーブ」は科学者たちを驚かせた。
スティーブはカナダ・アルバータ州で発見された発光現象で、「Strong Thermal Emission Velocity Enhancement(強熱放射速度増強)」の頭文字をとって「STEVE(スティーブ)」と呼ばれている。長く伸びる紫色の光の帯で、ときどき杭を打った柵のような形をした緑色の光を伴うこともある。観察報告は少なく、典型的なオーロラよりも緯度の低い地域で見られた。
スティーブが珍しい形をしたオーロラなのか、それとも別のものなのか特定できずにいた。しかし、2019年4月に学術誌『Geophysical Research Letters』に発表された研究で、スティーブは「ハイブリッド」の現象であるらしいことが分かった。

「柵のような形の光はオーロラですが、弧を描く紫色の帯はオーロラとは違うことが判明しました」と、研究の主執筆者で、米ボストン大学の宇宙物理学者、西村幸敏氏は語る。
この発見が重要なのは、典型的なオーロラもスティーブも、大気中の電離層で発生することを示していることだ。
オーロラは、太陽からやってくる粒子(プラズマ)が、地球の磁力線に沿って大気中にぶつかると、大気の電子がいったんエネルギーの高い状態になり(励起)、それが元に戻る際に色とりどりの光を放つ現象だ。
スティーブはこれまで、オーロラと外観が大きく異なること、オーロラよりも低緯度で発生することなどから、オーロラとは別の現象とされていた。
西村氏のチームは、スティーブは電離層で発生しているものの、紫の帯は、自由に動き回る、エネルギーの低い粒子の流れが、摩擦を起こして熱を発生させ、それが紫色の霞のように見える、とした。これは、電球のフィラメントが熱を帯びて発光するようなものだ。
一方、緑色の部分は、オーロラによく似ている。地球を包み込んでいる磁気圏が乱されると、「波」が発生して電子を加速し、電子が上層大気に流れ込んで大気中の粒子と衝突して、これを励起させる。このときに、柵のような形をした緑色の光が発生すると、研究チームは考えている。
つまり「スティーブの帯と柵は別の現象として扱われるべき」ということを研究は示唆しているのだ。西村氏らの研究はスティーブ解明の第一歩だ。さらなる観測データが集まれば、スティーブの全容が解明される日も近いだろう。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年5月9日付記事を再構成]
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