■おしゃれとは常に人目を意識して、油断しないこと
――かつてないほどの気温上昇もあり、ドレスコードなどと言っていられない現実もありそうですが。
「いや、男はだらしない格好をしてはいけません。僕の考えを古いという人もいます。でも、どんな時代でもこれが正しいということはある。ヨーロッパの一流ホテルでは日曜でも上着着用が常識。そういうことを社員にはたたき込んでいます」
「5月に横浜でクラシックカーのラリー(クラシックジャパンラリー2019 YOKOHAMA Y160)があり、僕があいさつしました。炎天下でもジャケット着用です。参加者や関係者が横浜をクローズアップしてくれるのですから、きちんとした格好でいたい。僕は人一倍汗っかきで、駆けずり回ってスピーチしていると麻のスーツがぬれていく。だけどネクタイは緩めない。そのうちびっしょりになります。でも思う。自画自賛だけどね、自分の存在を一番表現できているな、と」
――おしゃれは油断してはいけないのですね。
「常に人目を意識して、油断しないことです。家に帰った途端にスエットを着たら、おしゃれの衰退が始まる。僕が気を緩めるのは風呂に入るときと寝るときだけ。いつも訓練しているから疲れません」
――とはいえ時代とともに価値観は変化していきます。
「キタムラはバッグをやり尽くし、これから何を売るべきだろう、と考えた末に服や靴に進出した歴史があります。商売は常にメニューチェンジをしないといけないものです。だけど本質は変えません。進化させるのです。今のファッションはすぐに消費される変化ばかりがもてはやされていませんか。シャネルのジャケットにジーンズを合わせるようなことが進化なのです」
「キタムラにはこれまで苦しい時代がたくさんありました。そのときに銀行も行政も百貨店も助けてくれませんでした。助けてくれたのはお客様。だから、お客様を裏切るようなことはやらない。服装も信頼されるものでなければいけないのです」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)
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