EXILE TETSUYA 経営者としての可能性を試したい
EXILE/EXILE THE SECONDのパフォーマー・TETSUYAは、実に多彩なジャンルの活動に取り組む。その1つは、「E.P.I(EXILEパフォーマンス研究所)」というプロジェクトを通じた、ダンスのパフォーマンス向上の研究と教育分野への進出。さらに、コーヒーショップ「AMAZING COFFEE」のプロデュースも手掛け、現在5店舗を展開する。その背景には、「ダンサーは最高のパフォーマンスを続けられる年齢に限りがある」という、所属事務所LDHの会長であるEXILE HIROの考えが影響していた。
「僕は28歳でEXILEに加入しました。忘れもしないのが、その記者発表直前にメンバー全員でライブ前に行う"気合い入れ"をした場面でHIROさんが言った、『自分はこれから、勇退する日を想像しながらEXILEの活動に取り組む』という言葉です。このタイミングで僕らにこんなことを伝えた意味は、『自分の未来やセカンドキャリアも考えて、EXILEという場をうまく利用しながら、思いっきり取り組んでほしい』というものでした。その時は、まだ現実味がありませんでしたが、心に深く刻まれた言葉でした。
当初は、"EXILE"という特急列車に飛び乗った感覚で、必死に進むしかない日々でしたが、29歳から30歳になるタイミングで、今の仕事を将来にどうつなげていくか、そのために30代をどう生きるかと考えるようになりました」
転機1:雑誌での連載が教育へつながる
「まず取り組んだことは、パフォーマーを続けていくために、自分のパフォーマンスをどのように上げ、進化していくべきかの勉強。まず、30歳の時に、雑誌『月刊EXILE』の連載企画として『E.P.I』をスタートしました。例えば、同年代のサッカー選手にどのようなトレーニングをしているのかを聞き、そこから自分に生かせることはあるかを考える。また回復力を高めるための睡眠、パフォーマンスを上げる食事なども大学の先生や専門家に聞いて。雑誌の記事の形でアウトプットすることでファンの皆さんに楽しんでもらいながら、自分の考えも整理するのが目的でしたが、続けていくうちに、『これはきっと、EXILEの仲間や後輩グループのパフォーマーたちにも役立つものだ』と、強い手応えを感じて。常に探究心を持って、もっとたくさんのことを吸収していきたいと思いました」
E.P.Iの活動をきっかけに、2014年には淑徳大学人文学部表現学科の客員教授に就任。担当した「現代表現論」では座学とダンスの実践を通じて、自分がダンスで得た経験や思いを学生に伝えた。
「13年からダンス教育番組『Eダンスアカデミー』(Eテレ)で講師を務め、さらに大学生に教えることで教育に興味が湧いて。『学ぶのに年齢は関係ない』と、17年の4月、36歳で早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の社会人修士課程1年制に入学しました。修士論文のテーマは、『必修化以降の中学校における現代的リズムのダンス授業の現状と処方箋』です。08年の学習指導要領の改定で、中学校でダンス授業の必修化が始まりましたが、現場の先生はどう教えていいか分からない状況。今後の課題を論文にまとめました。
EXILEやEXILE THE SECONDの活動の合間を縫って、学校に通い卒業するのはとても大変だったのですが、それができたのはマネジャーさんをはじめ、会社の皆さんが支えてくれたからこそ。ただただ『卒業できました!』で終わったら失礼。これを未来につなげて仕事にしないといけない。実はこの4月から、僕の修士論文をもとに長野県の教育委員会と協力してダンスの映像教材の導入に向けて取り組むことになりました。ここでエビデンスを取り、実際の教育現場に取り入れてもらうことを目指しています。
また、E.P.Iでの研究の成果は健康維持・健康増進のダンス・フィットネスのプログラムとして、昨年から一部の『EXPG STUDIO』(LDHが展開するダンススクール)でクラスが開講しました。これを全国のEXPG STUDIOに広げたいと考えています」
転機2:おもてなしの心がコーヒー事業へ
ダンス教育の追求と並行して、その奥深さに取り憑かれたのがコーヒーだ。一見、パフォーマーとしての経歴と無関係に思えるが、LDHの理念とリンクしていた。
「普段から『ゲストにならず、ホストであれ』とHIROさんからアドバイスをいただいていて。ファンの方はもちろん、メンバーやスタッフなどすべての人におもてなしの心を持てということなのですが、じゃあ僕ができる最大のおもてなしって何だろうと考えたとき、まずはパフォーマーとして一生懸命踊ることで、E.P.Iでの研究はそこにつながるんです。
コーヒーに取り組んだことも同じで。ハマったのは10年、29歳の時。そこから、スタッフのみなさんへのおもてなしとして、ドームツアーの時期にはコーヒーをドリップし、10本以上の水筒に詰めて現場に持っていくときもありました。すると、あるツアーの公演後、スタッフが洗ってくれた水筒に『ありがとうございました』というメッセージカード付きで返ってきて。ドームで5万人のお客さんに言っていただく『ありがとう』と、自分の淹れた1杯のコーヒーに対しての『ありがとう』のどちらも同じくらいうれしいと気づいたんです。そこから、コーヒーの勉強にもさらに力が入っちゃいました。LDH社内にコーヒースタンドを作ったり、移動販売車でイベントに出店したりし、35歳のとき、プロデュースを手掛ける『AMAZING COFFEE』の1号店を中目黒に構えることができました。原価や仕入れ、人員のことなど全てに目を配っています」
40歳まであと2年。このインタビュー翌日には、入籍も発表した。公私共に最高に充実した状態で、来たる40代のビジョンを語った。
「HIROさんがパフォーマーを引退したのは44歳。でも最近、自分はもっと長く続けられるんじゃないかっていう欲が出てきました。未来に向かってEXILEのあり方は変わっていくかもしれませんし、もっと踊り続けられる可能性もあると考えています。
ビジネスでは、もっと責任を負っていきたい。例えば、『AMAZING COFFEE』はLDH kitchenという会社の事業として展開しています。大学院ではMBAの講義も受け、会社の運営も興味があります。コーヒー事業かもしれないですし、別の事業かもしれないですけど、経営者としての自分の可能性を試してみたいですね。1回の人生、挑戦なしでは面白みがないじゃないですか」
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2019年5月号の記事を再構成]
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