「女の敵は女」とあおらないで 不毛な議論やめよう
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
ウェブ雑誌「マネーポストWEB」の5月5日付の記事「働く女性の声を受け『無職の専業主婦』の年金半額案も検討される」がネット上で批判を浴びた。夫の厚生年金に加入し、年金保険料を支払わずに基礎年金をもらうことができる専業主婦、つまり「第3号被保険者」に関するものだ。
記事によると、共働きの妻や働く独身女性からの「保険料を負担せずに年金を受給するのは不公平」という不満が根強くあるため、政府は第3号被保険者の縮小を閣議決定し、厚生年金加入要件を緩和した。パート就業者らの加入が進めば「最後は純粋に無職の専業主婦が残る」わけだが、今後は「無職の妻」からも保険料を徴収する案などが浮上しているという。
これに対し、働く女性たちを中心に「勝手に私たちの声を代弁するな」とネット上で不審や怒りの声が挙がった。そもそも政府がパート就業者や専業主婦から保険料を徴収する検討を進めているのは財源不足が主要因であり、働く女性の要望によるものではない。仮にそうだとすれば、なぜ待機児童問題は一向に解消されず、家事育児サービス利用費の税制控除も導入されず、女性の平均給与は男性の約半分の水準のままなのか。依然、家事・育児・介護負担は女性に偏り、やむを得ず離職するケースも多いという社会の構造的課題を無視した記事、との批判も目についた。
記事は「働く女性VS無職の専業主婦」の対立をあおっているが、私見では典型的な女性の「分断統治」の目線である。現在は出産・育児で離職しても再就職する女性が多数派で、生涯専業主婦の女性はむしろまれだ。現実的とはいえない対立図式を前提に女性たちを恣意的に分断し「女の敵は女」の利害対立を敷衍(ふえん)する言説こそ「女性の最大の敵」といえる。
批判に対して同誌は、5月21日付で「働く主婦と専業主婦を分断しているのは国(厚労省)である」との弁明記事を掲載した。素朴な疑問だが同誌の「主体」はどこにあるのか。「国のいうことをそのまま伝えただけ、悪いのは全部国ですよ」との姿勢は、ジャーナリズムとしても大いに疑問である。
言説への責任感こそが、マスメディアへの信頼の源泉ではないのか。ダイバーシティ推進のためにもそろそろ「女の敵は女」というような不毛な議論はやめにしてほしい。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2019年6月3日付]
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