実は怖い「一見、いい人」 職場で逃げられない理由元自衛隊心理教官の下園壮太さんに聞く(中)

日経Gooday

下園さん:少しニュアンスが違います。自分の実力を客観的に認識できてくると、適切な目標設定ができるようになるのです。さまざまな経験を積み重ねてきて、「エネルギーには限りがある」ことが身にしみているのがこの年代です。無駄なことに労力を費やすと徒労になってしまうことが分かっている。

だから、目標を自分に合うものに切り替えるようになります。この目標変換の技術こそ、「あきらめる」ということです。あきらめるという言葉は、仏教用語で「明らかにする」という意味を持っています。目標を失うのではなくて、目標を自分にとって適正なものにできるのが、大人の生き方であり、技術なのです。

人に相談しにくい人は、「本」を活用する手も

編集部:なるほど。ところで、悩み方や対処の仕方について、男女差はありますか?

下園さん:どちらかというと「相談をする力」は女性のほうが強いですね。女性の何がすごいかというと、一人だけに相談しないのです。誰かに相談して納得がいかなかったら「この人にも相談してみよう」といろいろ試行錯誤してみる人が多い。悩みのジャンルごとに、相談する人を決めていたりもします。それが結果的に、いろいろな視点を得ることになるのです。

一方の男性は相談する力が弱い人が少なくありません。人に弱みを見せたくない、というプライドが高い人がどうしても多い。産業医などに相談したとして、そこでのやり取りに納得できなくても「プロの意見だから間違いないのだろう」と思い込み、一人で悩み続けている人がけっこう多いのです。

そのような人に対して私は「産業医の言うとおり、と信じ込んでしまうのは、あなたの人生にとって無責任ではないですか」と言うことがあります。本当の意味で、自分の悩みを分かってあげられるのは自分だけです。苦しい思いに対処する筋道を見つける一つの手段として、相談してみる。そうやって自分の悩みを軽くする対処ができる人は浮上しやすいのです。

男女関係なく、ここまで積み上げてきたキャリアがありますから、そこから降りるのはとても怖いことです。周囲に相談すると、情報が漏れそうで怖い、ということもあるでしょう。また、人間は、疲れていると警戒心が高まり、いつも以上に生身の人が怖くなるものです。

そんなときには、手前味噌ですが拙著も役立つはずです。本であれば、素直に情報を得ることができますし、弱っている自分につけこまれるのでは、という怖さもありません。いろいろな意見を取り入れて、そのときの自分が「いいな」と思うことを、自分勝手に取捨選択すればいいのです。今の自分が感じていることも、問題の質も、ケースバイケースで全然違うのですから。

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次回は、下園さんが実践のカウンセリングにおいて、どのようにクライアントの心の傷に直接触らずに寄り添っているか、現場の話を聞いていく。

(ライター 柳本 操、インタビュー写真:菊池くらげ、図版:増田真一)

下園壮太さん
心理カウンセラー、MR(メンタルレスキュー)協会理事長。1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊初の心理教官として多くのカウンセリングを経験。その後、自衛隊の衛生隊員などにメンタルヘルス、コンバットストレス(惨事ストレス)対策を教育。「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして約300件以上の自殺や事故に関わる。2015年8月退職。現在はMR協会でクライシスカウンセリングを広めつつ講演などを実施。近著に『「一見、いい人」が一番ヤバイ』(PHP研究所)。

[日経Gooday2019年5月14日付記事を再構成]

「一見、いい人」が一番ヤバイ

著者 : 下園壮太
出版 : PHP研究所
価格 : 1,296円 (税込み)