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実は怖い「一見、いい人」 職場で逃げられない理由 元自衛隊心理教官の下園壮太さんに聞く(中)

日経Gooday

2019/6/23

編集部:なるほど。著書にも、第一印象が良すぎると、現実に見える素顔とのギャップが大きくて葛藤も大きくなる、とありますね。

下園さん:そうなんです。もともと第一印象が「ほどほど」だと、相手への期待もさほど大きくないので、欠点も「まあ、そんなもんだ」と許容できるでしょう。しかし、第一印象が良すぎると、こちらの期待値も最大限に高くなっている。現実を知ったときの、理性と感情の分裂がさらに大きくなります。恋愛関係でも割とそういうところがありますよね。

「惚(ほ)れさせる」側面が大きいのが、「一見、いい人」の特徴であり、逃げ遅れる理由です。全力で「逃げろ」と感情が言っても理性の声のほうがはるかに大きくて、結局、逃げ遅れてしまうのです。

■「嫌い」という気持ちを封じ込めやすい日本人

編集部:また、「一見、いい人」に悩む理由の一つに、この気持ちに対して周囲が同調してくれないから、という要素を指摘されていますね。確かに、周りの人の印象が「一見、いい人」だと、それを否定しにくいですよね。こんなとき、悪いのは自分なのかな、などと自分を責める方向に動く人は少なくないでしょう。特に、日本人に多いように思います。

下園さん:おっしゃるとおり、日本人的な悩みだと私も理解しています。

日本人には、「田植えをするときにはみんなでやりましょう」、つまり、周囲と歩調を合わせることこそ大事、という精神文化があります。

学校生活でも「好き嫌いを明確に判断するトレーニング」を受けていません。子どもの頃、給食で嫌いなものがあったときに「みんなと同じように食べなさい」「残さず食べなさい」と言われませんでしたか。こういう指導法は、集団生活を学ぶ上で大切な側面でもあるのですが、問答無用に「みんなと同じ」を強制することは、ともすれば「我慢しなさい」「自分の気持ちを抑えなさい」という教育にもなりえます。

すると、大人になっても、自分の行動を自分の判断だけで決められない。周囲の影響がとても大きいのです。あの人が苦手、と思ってもその瞬間に、その人の支持者が複数いる様子が目に入ると、言えなくなる。

やがて、「自分の思い」を置き去りにして、「みんなと同じように、あの人について行けない自分がダメなんだ」と思うようになるのです。「自分はどう考えるのか」をしっかり考え、表明できる強さを持つ、というのは、子どもならずとも大人にこそ大切なことです。

■適正な目標に変換する技術を持つことこそ、大人の生き方

編集部:「一見、いい人」に悩む人はこんな人、というような共通した特徴はあるのですか。

下園さん:この種の悩みに困っているのは、働いている人が多いですね。友達付き合いは自然にフェードアウトもしやすいですが、職場の部署や上司を自分で選ぶのは難しいですから。

年代的に一番多いのは、30~40代の働き盛り世代です。大まかなイメージでご説明しますね。20代くらいまでは、夢を追いかける気持ちがあるし、体力もあります。しかし、30~40代になると、思うようにはいかない現実に直面してくる。しかし、まだ、自分に対しても社会に対してもあきらめていない世代です。

そこそこエネルギーもあるから、「我慢ができないのは心の弱さだ」と言われれば、そんな気もする。周囲を見たときに、能力を発揮して活躍している同年代がいる。自分は単に努力が足りないだけだ、とさらに自らを追い込んでしまいます。「一見、いい人」が有能な場合、知らず知らずのうちに消耗し、孤立化していきます。疲れとともに、孤独感も強く感じます。

編集部:もっと上の50~60代になると、ある意味、先が見えてくるから力が抜ける、というようなことがあるのでしょうか。

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