東宝・松岡常務 『ゴジラ』中核にハリウッド本格進出
日本のエンタテインメントを全世界で展開──その先頭として期待されるのが、国内映画会社No.1の東宝だ。国際担当の松岡宏泰常務が中心となり2015年4月、「東宝グローバルプロジェクト」を始動。その中核を担うのが、『ゴジラ』シリーズだ。
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を皮切りに、ハリウッドと対等の立場で共同製作を開始。14年公開の前作ではゴジラの映画化権をハリウッドの製作会社レジェンダリーに貸し出しロイヤリティー収入を得る形だったが、本作から製作費も出資している。
日本の映画製作費は1作品あたり数億円なのに対し、ハリウッド超大作はゆうに100億円を超える。東宝は出資金額を公表していないが、日本映画に比べると当然巨額。貸与方式に比べると、当たったときのリターンが大きいが、外れた際のリスクは高くなる。
東宝は配給会社として国内映画市場で首位を走り、子会社のTOHOシネマズの興行収入シェアも国内No.1。盤石の強さを誇る。なぜハリウッドと共同製作するのか。
「国内の映画市場は成熟しており、これから2倍になるのは考えづらいし、東宝のマーケットシェアをここから2倍にするのも難しい。一方、海外市場は成長しており、東宝は積極的に開拓していない状態でした。例えば東南アジア市場を狙っていれば、出資金額は少なくて済んだでしょう。でも、やるのであれば世界市場。ハリウッドのメジャースタジオしか、世界の配給網を持っていないんです。リスクは感じていますが、彼らと組むことにしました。実は今まで、ハリウッド映画のお金の動きはよく分からなかったのですが、出資することで経費や収入など全ての数字を見ることができる。海外戦略を進めていく上で重要なステップです」(松岡氏、以下同)
さらに出資することで、「金も出すが口も出すことができている」と言う。前作では、ゴジラの造形や行動の制限に関してのみだったが、今回は最初期の脚本作りから意見を出せるように。さらには、特にエンディングの重要なシーンを日本の意見で変えてくれたと言う。「詳しくは言えませんが、『最後のゴジラはこうしたほうがいいんじゃないか』という島谷(社長)と(映画調整担当)市川(常務)の意見を取り入れてくれました」
キャラクタービジネスも自社
ゴジラのキャラクタービジネスも海外展開に力を入れる。前作ではキャラクター権も貸し出したが、今回権利を買い戻した。「ディズニーの例などを見ても、マーチャンダイジングは人任せにできません。ゴジラは海外でもテレビ放送やアニメを見ていた大人世代が多いのですが、直接事業を手掛けることでゴジラが世界でどう受け入れられているか、ゴジラの強み、弱みも分かります」
東宝は20年公開の『ゴジラVSコング』にも出資しているが、ゴジラ関連だけではない。『名探偵ピカチュウ』『モンスターハンター』にも出資。さらに、東宝が製作に加わったハリウッド版実写映画『君の名は。』の共同企画開発が進んでいる。
東宝が権利を持たない『名探偵ピカチュウ』『モンスターハンター』は出資の事情が異なる。「3年前、ポケモンの20周年記念のテレビCMが(高視聴率のスポーツ番組)『スーパーボウル』で流れました。実写映像とCGのポケモンが融合した内容で、それを見たハリウッドの全メジャースタジオからの『映画をやらせてほしい』という依頼が株式会社ポケモンさんに殺到しました。レジェンダリーから東宝に連絡があり、ポケモンさんを紹介したのが出資のきっかけです。『モンスターハンター』は、『バイオハザード』の製作会社コンスタンティンが権利を獲得し、声をかけてもらいました。数年前で、主役や配給会社が決まる前でした」
「海外に攻めるんだ」と東宝・島谷能成社長が宣言したのが14年。15年4月に「TOHO VISION2018 東宝グループ 中期経営戦略」を発表し、18年2月期に向けた3カ年の中期経営戦略で海外事業の強化を打ち出した。その頃進めた企画がようやく完成・公開へとつながっている。今進めている企画は、既に契約に至ったものからまだ前段階のものを含めると、「10や20ではない、もっと大きな数が動いている」。その第一声となる『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は、東宝の世界戦略の試金石となりそうだ。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2019年6月号の記事を再構成]
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