有名企業か新興か 東大生も悩ませる就活「オヤカク」

2019/6/4
写真はイメージ=PIXTA
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就職活動の取材を進める中で、企業の間でも学生の間でも頻繁に話題に上る言葉がある。例えば「オヤカク」。内定者の親に対して企業が入社意向を確認することを言う。子どもの就職に親が口を出すのが不自然ではなくなっている時代。スタートアップ・新興企業を選ぶのか有名大手企業を選ぶのか、就活を巡るある東大大学院生の息子と大手企業勤務の父親のすれ違いの場面をのぞいてみよう。

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「そんな会社の名前は知らない。断りなさい」。東大大学院のMさん(24)の父親は、今年3月、内々定をもらった息子にこう言い放った。Mさんは人事コンサルタントを目指して企業を回り、希望する会社に「合格」したのだが、東京・丸の内にある大手企業に勤務する父親は、「君は東大の理系でしかも体育会系だろ。大手企業からも引っ張りだこのはずなのに、なぜそんな無名の会社に入るのか」と叱った。

Mさんが入社を希望する会社は2000年に創業した新興企業だが、すでに東証1部に上場、TVCMも流しており、学生人気の高い企業として知られていた。しかし、父親は「やはり名の知れたブランド企業でなくては意味がない。外資系の戦略コンサルや大手の総合商社と比べて、年収も格段に低い。他の大手企業を回り、複数の内定を獲得した後に判断したらいい」と諭したが、Mさんは「多くのコンサルを回ったが、その会社の社員としっかり対話し、働きがいを感じた」として両者の意見は平行線のままだ。

当該企業に話を聞いてみた。すると、「うちは人材サービス分野の有力企業に成長している。学生には人気が高いのに、50代の親世代には無名の会社。『オヤカク』に悩まされている」という。「オヤカク」とはこのような場面で使われる言葉だ。

創業間もない若いスタートアップ企業への入社を巡っても、似たような場面に出くわした。

「まだ創業5年以内の30人前後のスタートアップと大手メーカーの2つから内々定をもらったが、悩んでいる」と打ち明けるのは、早稲田大学政治経済学部4年生のFさん。両親は「スタートアップはリスクも高い。親戚もみんな大手メーカーに勧めている」として強く反発。Fさんも「スタートアップのほうが面白そうだけど、親に逆らうのも……」と思案中だ。

採用コンサルタントの谷出正直さんは「有名企業でなければノーという親は増えている印象だ。売り手市場で学生側が強気の採用環境なので、我が子が有名企業に行けるとイメージしている親が目立つ。子どもの側も親に相談したり、従ったりするケースが多い。自分で決められないのだろう」と解説する。

上場企業でもBtoBが主体の企業は一般に名前を知られていないことが多く、親対応に躍起になっている。「企業の採用HPを充実させ、資料や自社製品を親に送ることもある。親向けの会社説明会の開催、親に電話をかけてのあいさつ、内定者の家庭訪問する会社まである」(谷出さん)

スタートアップ・新興企業がいいのか、大手有名企業がいいのか、個人個人の問題であり、一概には言えない。スタートアップ・新興企業のメリットはスピード感ややりがいだろう。一方、大手有名企業は人材の厚みや待遇、職場環境で優れており、親の多くは「少なくともファーストキャリアは大手企業で」という考えのようだ。

いずれにせよ自分の人生なのだから、親に相談するのもいいが、自らがじっくりと企業を研究し、自分に合う会社かどうか確認して就職活動を進めるのが肝要だ。

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