脳の機能高めるエクササイズ 体のキレが一段とアップ
脳のコンディショニング術(4)
筋トレや有酸素運動のようなきついトレーニングではないのに、スポーツのパフォーマンスアップや、老化で衰えた身体機能の改善に効果が期待できる「脳のコンディショニング」。これは、トレーナーの江口典秀さんが提唱している「トータルニューロコンディショニング(TNC)」というメソッドで、江口さんが指導した様々な競技のアスリートが練習に取り入れ、成果を上げている。第1回では理論、第2回、第3回では基本的なエクササイズを紹介したが、今回は、より効果を高めるためのエクササイズを紹介しよう。
感覚器を磨き、脳の処理脳力を高める
スポーツをすると、「若い頃よりキレが悪くなった」「いまひとつパフォーマンスが上がらない」などと感じることがある。これらの原因は、加齢による筋力、体力の低下? と思いがちだが、実は、脳の情報処理能力の低下が原因、というのが江口さんの考えだ。
その場合、どんなに筋トレや走り込みなどに励んでも、成果は上がらない。脳の機能を高めるためには、赤ちゃんの発達段階を追ったり、正しい立ち姿勢を保持できるようになるエクササイズを行うことが有効だ(第1回「加齢で衰えた体のキレ 脳の感覚チェックで取り戻す」、第2回「脳活性化で体機能向上 アスリートも励む赤ちゃん返り」、第3回「脳の機能狂わす歪んだ姿勢 楽々エクササイズで矯正」参照)。
今回は、さらにステップアップして、「巧みな動きができない、動きに左右差があるといった悩みを解消するエクササイズを紹介しましょう」(江口さん)
私たちは、視覚、平衡感覚、体性感覚から様々な情報を取り入れて脳に「入力」し、脳でこれらを「処理」して、神経を介して筋肉に指令を出し、「出力」する。これが運動だ。つまり、いい運動をするためには、「入力」と「処理」の機能を高めることが必要だ。
「私たちは情報の約80%を視覚から得て、垂直、水平位を維持しているため、まず、両目がきちんと使えることが重要です」(江口さん)
また、「平衡感覚は頭の傾きや加速度を感知して脳に命令を伝え、バランスと空間を認知しています。体性感覚は皮膚、筋肉、関節などにあるセンサーから情報を感知して、体の情報を脳に伝えています」(江口さん)
これらの感覚器を鍛えるためには、目を使ったり、頭や体を動かすエクササイズを行い、脳の処理機能を活性化させるといいそうだ。以下に、感覚器の機能チェックと脳の処理能力アップのエクササイズを紹介しよう。
●チェック
【指鼻指タッチ(開眼10回、閉眼10回)】
※1人で行う場合、ペン立てのペンなどにタッチしてもいい
二人で向かい合い、腕を伸ばして人さし指同士がタッチできる距離に立ち、一人が相手の人さし指と自分の鼻を交互にタッチする。これを目を開けた状態で10回、閉じた状態で10回繰り返す。タッチする場所がずれたり、手がスムーズに動かず揺れたり、ぎこちない場合、感覚器の機能や脳の処理能力が低下している。左右差なく体をしなやかに動かすためには、両側ともに正確に動かせる必要がある。
【眼球運動(左右、上下各10回)】
自分の顔の両側で人さし指を立て、頭を動かさずに目だけをなるべく素早く左右に動かして指を交互に見る。続いて、顔の斜め上と斜め下に人さし指を横にしてかざし、目をなるべく素早く上下に動かして指を交互に見る。目と一緒に頭が動く場合や両目をスムーズに素早く動かせない場合、脳の処理機能が低下し、動きながら素早くものを見る(視覚情報を入力する)能力が低下している。上下の動きが悪い場合、階段をスタスタ下りられなくなる。
【片手ボールキャッチ(左右各8~10回)】
テニスボールなどを右手で床に向かって投げ、跳ね返ったボールを右手でキャッチする。その後、左手でも同じように行う。手とボールの位置がずれたり、タイミングが合わないような場合、視覚や体の位置感覚といった感覚器の機能や脳の処理能力が低下している可能性がある。
これらのチェックで動きの鈍さを感じた人は、次に紹介するエクササイズを行おう。全てゆっくりと、安全に注意して行うことが大切だ。
●エクササイズ ※全てゆっくりと、安全に注意して行う。
【より目(10回)】
鼻の前に人さし指を立てて、指紋に焦点を合わせ、ゆっくり近づけたり離したりする。近づけた時に指が二重に見えたら一度止め、焦点が合う位置まで戻し、焦点が合う位置まで再び近づける。
【閉眼タッチ(左右スムーズにできるようになるまで)】
前述の「指鼻指タッチ」と同様に向き合い、目を閉じて相手の人差し指にタッチする。目を開けて、どれくらいずれていたかを確認し、再び目を閉じで再度タッチする。
【8の字回旋(開眼左右各5回、閉眼左右各5回)】
足を閉じて立ち、手のひらから肩を大きく回してしなやかに8の字を描く。このとき、顔も後ろに向くようにして、ゆっくりと回す。
【上肢の回旋(左右各10回)】
足を閉じて立ち、肩の高さに手を組み、手のひらに焦点を合わせたまま、目を動かさずにゆっくりと体を左右に回旋させる。
第2回「脳活性化で体機能向上 アスリートも励む赤ちゃん返り」で紹介したベーシックなエクササイズに、これらのエクササイズをプラスして行い、しなやかに動ける体を手に入れよう。効果を実感したい方は、エクササイズ後に指鼻指タッチを再度行い、改善しているかをチェックしてみよう。
(文 村山真由美、写真・動画 鈴木愛子)
マークスライフサポート代表取締役、日本オリンピック委員会強化スタッフ。順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科修了後、プロスポーツ選手や実業団選手など、多くのトップアスリートのケアおよびトレーニングを指導してきた。これまで夏季・冬季オリンピックにてセーリングやアルペンスキーの日本代表チームのコンディショニングを担当。現在は神経科学を応用した脳のコンディショニング「トータルニューロコンディショニング(TNC)」の普及に尽力している。
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